中国政府を揶揄したポップソングが爆ヒット! 当局を怒らせた歌詞の内容を徹底解説
「傷つけてごめんね、君の気持ちを傷つけちゃった。 そしてある音が聞こえて来た。 それはガラスのハートが砕ける音 …。」 中国の若年層ナショナリストを揶揄する中国語のポップソング『玻璃心』が中華圏で爆発的にヒットしている。 直訳では分かりづらい歌詞の暗喩や風刺を一挙解説。
真っ赤に染まりきらないピンクちゃんに捧ぐ
マレーシア華僑ラッパーのネームウィーが歌う中国ポップソング『玻璃心(ガラスのハート)』が中華圏や多くの中国系住民を抱える国・地域で爆発的ヒット中だ。 YouTube のミュージックビデオ (MV) 再生回数は 10 月 15 日の配信から 6 日間で 1,000 万回、1 ヵ月足らずで 3,000 万回を超えた。 中国共産党と「小粉紅(シァオフェンホン : ピンクちゃん、中国の若年層ナショナリスト)」を思いっきりおちょくった過激な歌詞のため、中国国内ではダウンロード、視聴が即座に禁止された。
曲を歌ったネームウィーとオーストラリア華僑シンガー、キンバリー・チェンの中国 SNS アカウントもともに閉鎖された。 「小粉紅」はもともと中国オンライン文学サイトで BL 小説や百合小説を読みふけるオタクな乙女ユーザーを指した。 のちにユーザーの一部が愛国主義的な投稿を始め、「中国の主張はどの国よりも正しい」と極端な愛国主義に走るようになる。 そこから、歴史や政治の基本的知識すら持たずにナショナリズムを振りかざす若者を「小粉紅」と呼ぶようになった。
「粉紅色」は「ピンク色」。 中国共産党(シンボルカラーは紅色)に洗脳・煽動されながら「真っ赤に染まりきっていないピンク」の意味も掛けている。 「小粉紅」は 2019 - 20 年の香港騒乱で、民主派を罵倒し中国共産党支持一色となって悪名を馳せた。 中国を連想させるフレーズが散りばめられている MV ではデュエットするネームウィーとキンバリーの衣装から、着ぐるみパンダの迷彩柄のつなぎ、背景の建物まで、ピンクであふれている。 パンダは中国政府の暗喩。
サビのコーラスでは、傷つきやすく批判に耐えられない相手(= 小粉紅と中国当局)にしつこく「本当のこと言ってごめんね」が繰り返される。
中国揶揄にまみれた『玻璃心』の歌詞全文紹介
警告! 玻璃心患者慎入(ガラスのハートの持ち主はご注意を)
「玻璃(ガラス)心」は文字通り「ガラスのようにもろいハート」だが、「心が狭い」、「被害妄想」、「陰キャ」に近いニュアンスでも使われる。
説的话 你従来都不想聴 (君はもともと他人の話を聞かないのに)
卻又滔滔不絶出征反撃 (べらべらまくし立てて何度も反撃して来る)
不明白 到底辱了你哪里 (僕は分からない、どこで君の気分を害したのか)
総覚得世界与你為敵 (いつも世界と君は敵対している)
このくだりは、一方的な主張を繰り返し、批判を聞く耳すら持たず、「戦狼」外交でいつもどこかの国・地域と対立している中国の対外姿勢を表している。 「出征」は文字通り戦地に赴く意だが、ここでは、「小粉紅」の集団的嫌がらせ行為のこと。 中国を侮辱した相手を大勢で征伐に行く、というニュアンスだ。 日本のヤフーニュースで中国関連記事のコメント欄に中国政府擁護コメントが殺到するのも「五毛党(中国のネット世論誘導工作員)」、「小粉紅」たちの「出征」の一環だ。
「辱」は、中国人が一方的に、中国の誇りや尊厳を傷つけられたと憤って外国人を糾弾する行為「辱華(ルゥフア)」のこと。 2021 年 11 月、仏高級ブランドのディオールが公開した目の小さなアジア女性の写真に、中国人から「欧米人によるアジア人の醜悪化」などの批判が殺到。 ディオールが謝罪に追い込まれたことは記憶に新しい。
你説我 属於你 (君は言う、あなたに属しているよって)
别逃避 快回家里 (逃げないで、早く帰っておいで)
一点都不能少都譲你赢 不講道理 (理不尽だろうが少しも欠けてはならない完全勝利)
你要我 去説明 (君は私に説明させたい)
不可分割的関係 (切っても切れない僕らの関係を)
還要呵護着你易砕玻璃 (そして君のガラスのハートをケアしなきゃ)
ここは、中国と台湾の関係を暗示している。 中国にとって台湾は自国に属する中国の一部で不可分の領土。 習近平政権は中台統一(台湾併合)を至上課題に据えている。 中国では古来、「老祖宗留下来的領土一寸也不能丟(祖先が残した領土は一寸たりとも失ってはならない)」、「中国一点都不能少(中国の国土はわずかでも欠けてはならぬ)」という考えが受け継がれている。
コウモリ、ハクビシンが大好きな君
対不起傷害了你 (傷つけてごめんね)
傷了你的感情 (君の気持ちを傷つけちゃった)
我聴見有個声音 (そしてある音が聞こえて来た)
是玻璃心砕一地 (それはガラスのハートが砕ける音)
対不起是我太任性 (僕はワガママだ、ごめん)
講真話総譲人傷心 (本当の話はいつも人を傷つける)
或許不該太直白超白(こんなにストレートに言うべきじゃなったかも)
I’m So Sorry (ごめん)
又譲你森七七 (また君を怒らせちゃった)
「気持ちを傷つける」は、中国当局の常套句。 政府の報道官は何かにつけて、「中国 14 億の人民の気持ちを傷つけた」と言って海外政府や報道を批判する。 「直白(ヂィバイ : ストレート)」は、台湾語の罵倒語「雞掰(ジィバイ : 女性器、嫌な奴、鬱陶しい行為)」と発音が似ている点も掛けている。 「森七七 (森77、センチィチィ)」は標準中国語の「生気気(ションチィチィ : プリプリ、プンスカする)」から派生した台湾ネットスラングだ。
你擁有 粉紅色純潔的心 (君にはピンク色の純粋な心がある)
熱愛小狗小猫蝙蝠果子狸 (子犬、子猫、コウモリ、ハクビシンが大好きな君)
要聴話 別再攀岩爬墙壁 (言うことを聞いて もう岩や壁によじ登らないで)
爺爺知道了又要懐念你 (おじいちゃんにバレたら、また君を追悼することになる)
你説你 很努力 (君は、努力していると言う)
不换肩 走了十里(重荷を降ろさずに 40km も歩いたって)
コウモリは、中国・武漢市から世界に拡散した新型コロナウイスの病原体保有宿主と言われており、ハクビシンは 2003 年に中国・広東省から猛威をふるった重症急性呼吸器症候群 (SARS) ウイルスの中間宿主と言われている。 MV にはグツグツ煮込んだコウモリ鍋 (!) が登場。 「壁」によじ登り壁を乗り越えることはつまり、グレートファイアーウォール(金盾)と呼ばれる中国のネット検閲システムを VPN などで迂回して、世界のネット空間にアクセスする意味。
「おじいちゃん」は中国政府トップ・当局のことだ。 「肩」のくだりは、習近平が 2012 年 11 月に国家主席に選出された際、「彼は若い頃、50kg、100kg の麦を片方の肩で担いで 5km の山道を何時間も歩いた」と紹介されたエピソードへの皮肉だ。
習近平と中国政府のリアルタイムな政策を嘲笑
摃着綿花 采著它愛的蜂蜜 共同富裕 (木綿をかつぎ、大好物の蜂蜜を採取し、共に繁栄する)
拚了命 要脱貧 (貧困から脱するため必死になって)
毎天到韭菜園里 (毎日ニラ畑に行き)
収割撒幣月領一千真開心 (収穫してバラまかれた月給 1,000 元を受け取り喜ぶ)
丸っこい容姿の習近平は蜂蜜好きのディズニーキャラクター「くまのプーさん」に似ていることから、ネットスラングで「プーさん(小熊維尼)」と呼ばれている。 MV ではおびただしい数のテディベアなど熊のぬいぐるみが登場する。 「綿花」は新疆綿、「脱貧(困)」と「共同富裕」は習近平政権が提唱している政策で、資産の再分配を口実に大企業から財を奪うことだ。
「ニラ刈り」は中国の株式用語「割韭菜(ニラ刈り : 個人投資家が少数の大株主のカモになること)」で、近年は国家に人民が搾取される意でも使われる。 「撒幣(サァビィ : カネをバラまく)」は音の似た「傻逼(シャァビィ : 阿呆)」の意味も。 「1,000 元(約 1 万 8,000 円)」は、李克強首相の 2020 年の報告「6 億の人民が月収 1,000 元程度の貧困にあえいでいる」の当てこすりだ。
ウイグル、香港、台湾をがっつり盛り込んで
説個話 還要自帯消音 (話していても自主規制音を入れないといけない)
怕被送進去 種哈密瓜再教育 (あそこに送られるのは恐怖だ ハミウリ栽培の再教育)
吃了蘋果 你又要切鳳梨 (リンゴを喰ったあとはパイナップルを切らないと)
在那辺噗噗 就罵我的媽咪 (プンスカの時は "f*ck‘ing your mother" と罵る)
拝託你 別再偷我的東西 (お願いだから もう盗むのは止めて)
要我跪下去 Sorry 我不可以 (僕を土下座させたくてもそれはできないよ)
跟你説話 像対熊猫弹琴 (君と話すのは、まるでパンダの耳に念仏のよう)
真的驚呆了吓尿了 倒吸一口気 (マジでビビって、ちびった、息を呑んだ)
「ハミウリ」は新疆ウイグル自治区特産のメロン、「再教育」は再教育施設という名の強制収容所に収容されてしまうことに怯える気持ちを表している。 「リンゴ」は 2021 年 6 月、休刊に追い込まれた香港最大の民主派新聞「蘋果日報(アップルデイリー)」、「パイナップル」は 2021 年 3 月から、中国が害虫の検出を口実に禁輸という経済制裁の対象にしている台湾産パイナップル。 リンゴとパイナップルは香港と台湾のこと。
MV 画面に始終たなびく旗の文字「NMSL」はネットで使われる罵倒語「你媽死了(Ni Ma Si Le : お前の母ちゃん死んだ)」の頭文字だ。 「盗む」は知的財産権や著作権の認識が甘くパチもん乱造の中国経済の当てこすり。 「土下座」は、台湾の芸能人に対し中国マーケットでの機会提供と引き換えに「中国は我が祖国」「ひとつの中国論を支持」などと言わせて忠誠を誓わせる醜悪な恫喝を指す。 「驚呆了」、「嚇尿了」、「倒吸一口氣」は中国絡みのびっくりニュース、トンデモニュースを引用する時に多用される「あり得ない」、「信じられなーい」的ニュアンスのフレーズだ。
中国のコロナワクチン寄贈に謝意
YouTube の分析による「『玻璃心』 MV が最も視聴された上位 30 ヵ国・地域」によると、上位から順に、台湾、香港、マレーシア、米国、シンガポール、ベトナム、インドネシア、メキシコ、中国、ブラジル、ロシア、アルゼンチン、トルコ、ドイツとなっている。 中国では YouTube へのアクセスが禁じられているが、トップ 10 に入るほど多くの人民が、ネット検閲を超えて同曲に触れているということだ。 南米やオセアニアなどへも『玻璃心』は広がりをみせていることにネームウィーは「意外」と率直に語った。
「音楽には翼がある。 僕が曲を作ったあと、曲は共鳴、共感が大きければ大きいほど単体で世界中を飛び回る。 自由な世界を渇望する多くの人が『玻璃心』で覚醒した。(ネームウィー)」
ただネームウィーは『玻璃心』について「ラブソング」だとうそぶく。 「夢見る乙女、ピンクちゃんの曲だよ。 MVはピンク色でまとめ、パンダやぬいぐるみなどファンシーな要素を多く取り入れた。 特定の国名・人名はいっさい出て来ない。」 MV のラブリーなロケ地は、台湾東部・宜蘭市郊外の温泉「A.maze 兔子迷宮~礁溪浴場」で、SNS 映えするスポットとして再び脚光を浴びている。
中国への強烈な皮肉に満ちた『玻璃心』を高らかに歌い上げ、中国市場での活躍を完全に絶たれたが、ネームウィーは決してゴリゴリの反中主義者というわけではない。 12 月 4 日、マレーシア政府が中国から新型コロナウイルスワクチン 200 万回分が追加で無償供与されると公表、ネームウィーは SNS で「どうもありがとう! コロナ発生当初は中国の情報非開示が批判されたが、実際に防疫の行動を起こすことは立派だ」と謝意を示した。( Jun Tanaka、クーリエ・ジャポン = 12-10-21)
「あなたを寝に行く」農村女性の詩、中国全土に拡散
農村に住む一人の脳性まひの女性の詩が、いま中国で爆発的に読まれている。 鮮烈な色彩感と躍動感を持つ言葉で表すのは、農村の四季と農民の心情、民工(出稼ぎ労働者)の現実、そして自らの内に潜む情動だ。 昨年末、中国版 LINE 「微信」で発信されると、瞬く間に中国全土に拡散。 社会的ブームの様相を呈している。
詩人の名は余秀華(ユイシウホワ、39)。 湖北省鍾祥(チョンシアン)市郊外に住む。 出生時の影響で脳性まひの後遺症が残る。 不自由な手で一文字一文字つづった代表作が「中国の大半を通り抜けてあなたを寝に行く」だ。 「中国の大半を通り抜けて」とは、文字通り中国の大半を物理的に移動すること。 「あなたを寝に行く」とは、性交を意味する。 愛する伴侶と夜を共にするにも長距離を移動しなければならない「民工」の現実をうたっている。
「寝に行く」は中国語で「去睡?」と書く。 文法的には明らかに間違いだが、故意の誤用が社会的に虐げられた「民工」の情動を想起させ、そこに鮮烈なイメージを生む。 余は「詩は一つの感覚。 論理がないから、適当でいい。 テーマもほとんどない。 詩は現れるもの。 そして印象を追いかけるもの。」と話す。
「彼女の詩には『思考の急変』がある」と指摘するのは、日本に紹介した明治大学の張競教授。 「言葉には無意識のうちに規則があるが、それを一気に外されるとドキッとする。 彼女は言葉とイメージの "脱臼" をうまく詩に取り込んだ。」と解説する。 今年、2 冊の詩集「揺揺晃晃的人間(ふらふらした人間)」、「月光落在左手上(月光は左手に落ちる)」を出版、初版部数が少ないこともあり、増刷が追いつかない状態が続く。 有力メディアから取材が殺到した。
出版業界の専門紙「中国図書商報」の郭是海(クオシーハイ)編集長は「中国では常に政治が第一。 作家や詩人は政治を意識し本当のことを書かない、と思われている。」と話す。 「余秀華は農民で障害者。 政治を意識せず、本音で書いた。 少なくとも読者には、そう受け止められた。 だからウケた。」 余自身も「私の詩には真実や本音が書いてある。 私は普通の農民。 何も隠す必要がない。 詩が私にとっての自由。」と語る。
張教授は「ゆがんだ社会の現実が彼女のメガネを通し別方向からクローズアップされることで、人々に新鮮な驚きをもたらした」と指摘する。 「中国の大半を通り抜けてあなたを寝に行く」では、民工の厳しい現実を「性愛」の一点に集約させた。 浮かび上がるのは、農民から「寝る」ことさえ奪ってしまう中国社会の本当の意味での残酷さだ。 「一般的で単純な理解でなく、我々が見落としていたイメージを鮮やかに提示する。 圧倒されます。」 社会的に抑圧される「農民」、「障害者」が「詩人」になること自体、中国社会には新たなイメージの提示であり、新鮮な驚きだ。 張教授は「社会的ピラミッドがひっくり返された衝撃」と表現する。
余自身は「自分の真意に従って生活できなくても、真意に従って詩を書くことはできる。 人に見せるためでなく、自分のために書いている。」と語っている。 (竹端直樹、asahi = 8-4-15)
『中国の大半を通り抜けてあなたを寝に行く』 余秀華〈訳 : 張競〉
実を言うと、あなたを寝ることとあなたに寝られることはそう変わらない、いずれも
二つの肉体が衝突する力、この力が押し開いた花である
いずれもこの花が作り出した疑似の春は命が新たに打ち開かれたと誤解させたことだ
中国のほぼ全土で、あらゆることが起きている : 火山が噴火し、川の流れが枯れている
誰も関心を寄せない政治犯と流民たち
銃口にさらされている路上の麋鹿(しふぞう)や丹頂鶴(たんちょうづる)
私は弾丸雨飛の中をくぐってあなたを寝に行く
私は無数の暗夜を一つの黎明(れいめい)に押し込んであなたを寝に行く
無数の私が疾走し一人の私になってあなたを寝に行く
ろん私も何匹かの蝶々(ちょうちょう)に導かれ岐路に迷いこんだことがある
いくつかの賛美を春だと勘違いし
横店と似た村を故郷と思ったことがある
しかしそれらは
すべて私があなたを寝に行く理由である
(注) 「麋鹿」は頭は鹿、脚は牛、尾は馬、背はラクダに似ている鹿の一種。 「どっちつかずなもの」を意味する。「四不像」とも書く。
亡命漫画家・変態唐辛子が語る「中国共産党の言論統制」
こんにちは。 中国人漫画家の孫向文です。 先日、「変態唐辛子」のペンネームで活動する風刺漫画家・王立銘先生 (41) と都内でお会いしました。 言論統制が敷かれている中国において、王先生はネット上にて痛烈に中国共産党を非難する漫画をアップし続けていました。 そんな王先生の中国版ツイッター「微博」のアカウントが停止されたのは、日本旅行の最中、今年の 5 月のことでした。
「このまま中国に戻ったら、拘束されるだろうと思ってね、今は日本政府に亡命を申請しているところだよ。 奴らは本当に卑劣だ。 私が中国で開設していたインターネット商品の取引サイトのアカウントも突然閉鎖されてしまったんだ。 おかげで今は収入が全くない状態だよ。」 中国には「五毛党」と呼ばれているネット工作員がたくさんいます。 中国共産党からお金をもらって、政府にとって都合のいい情報を書き込む者たちです。 五毛党は、こうした先生の惨状を嘲笑いました。
<変態唐辛子は売国奴だが、今は無職だ。 日本で金を稼いでいたら、本当の売国奴だが、今は金を稼いでいないから、0 円売国奴だ www>
多くの中国国民にとって、中国共産党を揶揄する王先生の漫画は痛快なもので、先生は中国国内で圧倒的な支持を受けていました。 ですから、こういう書き込みの大多数は、五毛党だと容易に想像がつきます。 中国政府にはむかった者が、どういう末路をたどっていくのか。 その見せしめとして王先生は利用されたのでした。
共産党の卑劣な嫌がらせ
ネット上での発言権ばかりか、収入すらも断たれてしまった王先生。 ですが、中国共産党に立ち向かう闘志は依然として衰えておらず、この日も、僕らは政府を罵倒する話でもりあがりました。
「私の友達も、ことごとく共産党の嫌がらせを受けているよ。 あいつらはいつも卑劣だ。 肉体的に暴力をふるったら民衆の非難を受けるから、証拠が残らないようにやるんだよ。 たとえば、椅子の上に手錠をかけて拘束された状態にされるだろ。その周りを何人もの警察官に囲われ、目に強烈な照明を当てられるんだ。 とてもじゃないけど、目なんか開けられるような状況じゃない。 でも、目をつぶったら、肩を叩かれ、寝てはいけないと起こされるんだ。 そんな状態で 10 時間以上も座らされてね、それをやられた友人は、精神的に参ってしまったよ。」
こうした嫌がらせや虐待は、中国の十八番です。 特に思想犯や反政府の者たちに対する尋問は厳しくて、虐待のレパートリーは数え切れないほどあります。 そもそも、中国は、法の上に共産党が存在しており、「法は人民ではなくて共産党を守るため」にあるのです。 そういう国の成り立ちからしても、反政府の者には人権など存在しないのは当たり前でしょう。
「今度、そういう漫画を描こうかと思っているんだ。 中国共産党の悪行を広めるためにね。 これまで奴らがどんなことをしてきたのか徹底的に描く! 文化大革命のときなんか、派閥闘争で負けた者は、自分で地面に穴を掘らされてその中に飛び込まされ、生き埋めにされた。 さらに銃殺の際には、その遺族に対して銃弾のお金を請求するようなこともしていた。 本当に残酷だよ。」
中国でのネット上での発言権を奪われてしまった王先生。 こうした中共の拷問漫画は、まず、この日本において発表される可能性が高いでしょう。 僕らは反中共漫画家として同盟を組み、今後も中国の悪事を描きたてていきたいと思っています。 (DMM = 1-3-15)
中国、2015 年に悪夢の「文化大革命」が再び起こる可能性
今の中国はとても気持ち悪い国になっています。 12 月 26 日は毛沢東の誕生日だったのですが、「毛沢東の生誕を祝おう」という書き込みが中国のネット上で渦巻きました。 習近平が主席に就いてから、とみに見受けられるようになった毛沢東賛美。 5 年前だと考えられない話です。 毛沢東は、大躍進政策の失敗による大飢饉や、文化大革命(1966 年 - 1976 年)を引き起こしました。 その死者は 6,000 万人とも言われています。 30 代以上であれば、親の世代から聞いてそのことは知っていますが、10 代、20 代の若者は、親も文革を経験していないため、毛沢東の悪行はろくに聞かされていません。
歴史の授業でも文革についてはほんの数行でしか記されておらず、しかも毛沢東の失政ではなくて、四人組の責任に転嫁されています。 習近平が毛沢東に憧れていることは日本でも報道されているので、ご存知の方も多いことでしょう。 習近平は毛沢東語録を真似て習近平語録(『習近平の治国と理政』)を作ったり、毛沢東を真似て文化人を集めて文芸講話をやったりと、毛沢東の物真似ばかりしています。
少なからず歴史を知っている人であれば、あの最悪だった時代を繰り返そうとしているように思えます。 2015 年の中国は、ズバリ、そんな暗黒時代がさらに再現され、中国の言論人や表現者が続々と粛清されることでしょう。 そして、毛沢東記念日が生まれ、毛沢東の銅像が街のいたるところに立ち、中国は、北朝鮮のような全体主義化の道を歩んでいくのです。
2015 年は中国社会の分岐点
そもそもなぜ、国民は、毛沢東の再来を望んでいるのか。 それは、強い中国になってほしいからです。 毛沢東は欧米や日本といった侵略国を中国から追い出し、中華人民共和国を建国した偉人だという認識で捉えられています。 その後、中国は、飢饉と文革による地獄に突入したのですが、今の若者はその成り行きを正確に認識していません。 そしてお年寄りはお年寄りで、もはや圧政に慣れきっていて、民主などの夢も持っていません。 さらに限界まで進行した歪な格差社会。 こうした全ての状況が毛沢東の再来を後押ししているのです。
毛沢東が強い中国を作るために何をやったかというと、自身の好まない文化の破壊、先進的な考えを持つ者を虐殺、チベット民族を始めとする少数民族の弾圧、排外主義、宗教弾圧 ・・・ などでした。 同様のことはすでに起こっています。 ネットの言論弾圧はますますひどくなり、微博で 500 回以上リツイートされてそれがデマだったら逮捕されるという法案も生まれました。 街中には無数の監視カメラが設置され、反政府の者たちがいないか見張られています。 あのチクリ社会である文革と同様の状況です。 息をつく暇もありません。
表現規制も同様です。 習近平が主席に就いてからというもの、エンターテイメントの分野では、濡れ場規制に始まり、ゲームキャラクターがミニスカート禁止、胸チラ禁止、男女の接触禁止、腐女子作家の逮捕、同性愛作品の粛清 ・・・ など規制が強まっていきました。 これは僕のような漫画家にとっても由々しき問です。 それでもなおかつ、自身の表現を貫きたいという表現者や、言論人たちは、今後、続々と拘留されていくことでしょう。 先日は日本に亡命している変態唐辛子こと、王立銘先生をインタビューしましたが、王先生のように亡命する表現者は、今後、ますます増えていくはずです。
ですが、こんな状況を黙って見つめるわけにはいきません。 僕自身の 2015 年の抱負は、中共から弾圧された表現者や言論人と一致団結して、全体主義化を強めている中共と対抗し、中国国民や日本にも正しい情報を伝えていくことです。 2015 年の中国は、これから更に地獄に突入していくのか、それとも国民がその危険性に気づいて危機を脱することができるのか、その分かれ目なのです。 (孫向文、DMM = 1-1-15)
孫向文 : 中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の 31 歳。 20 代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。 その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。 近著に『中国のもっとヤバい正体(大洋図書)』。
中国共産党に対して反対している! "命がけマンガ" 第 2 弾を発売した作者が語る中国とマンガ
2013 年 7 月に発売された『中国のヤバい正体(大洋図書)』は、中国のタブーについて赤裸々に描かれたコミックとして話題になった。 作者である孫向文氏は、中国の浙江省杭州市に在住する一青年である。
日本人が中国の嫌中本を書くのとはわけが違う。 もし中国共産党の癪に障り、身元がバレてしまえば、逮捕される可能性も大いにある。 中国の刑務所は、拷問も当たり前であり、最悪殺されてしまうかもしれない。 文字通り、生命をかけて描いたマンガだった。 そして今回、続巻である『中国のもっとヤバい正体』が発売された。 そこで、著者である孫向文氏に、話を聞いてみた。
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僕はそもそも、"反中国本" を描いたという意識はないんですよ。 中国は愛していますし、中国の未来も深く考えています。 ただ、中国共産党に対しては、反対しています。 だから "反中共本" ですよね。 今、中国共産党がやっていることの多くが、中国の憲法に違反しています。
中国の憲法上では、報道の自由もあるし、出版言論の自由、デモの自由もあります。 憲法自体は日本の憲法とそれほど変わらないのです。 ただ、中国政府はそれを守っていません。 デモをやっている中国人は拘束されますし、活動家を弁護している弁護士も逮捕されました。 だから中国人は、「中国の憲法はトイレットペーパー」と自虐的に語るんですよ。
中国人の中には、反日意識を持っている人が確かにたくさんいます。 ただ、その反日にもレベル差があります。 無差別に日本人を攻撃する「憤青(怒れる若者)」と呼ばれる人たちは頭がおかしい。 「中国人はゴキブリだ」、「中国人は民族的に劣っている」などという日本の過激な右翼に近いかもしれません。 昔の日中戦争は事実であり、日本に対するマイナスの印象は避けられません。 ただ、過去のことはひとまず忘れ、友好の未来をつくるのが建設的だと思うのですが、現在の中国共産党が、昔の恨みを思い出すように仕向けているのです。
それに、実際に日本人に会うと "いい人" が多いんですよね。 中国人も、日本人は礼儀正しい人たちだと思っている人がたくさんいます。 逆に韓国に関しては、歴史的には嫌いになる要因はあまりないのですが、直接対面すると態度が大きい人が大きかったり、韓国人お得意の "韓国起源説" が鼻についたりして、韓国人嫌いになっている場合が多いです。 ただ、それでも、習近平政権が続く限り、中国の反日親韓の姿勢は揺るがないでしょう。
そしてもうひとつ、今後、中国の環境問題は、ますますひどくなっていくと思います。 中国の上層部は中国を見捨て、外国籍をとり、家族を外国に逃しています。 資源の採掘も私服を肥やすためにやり放題で、まったく制御できていません。 日本の右翼が「中国の未来は貧乏人と汚染した国土しか残らない」と言ってましたが、これは僕も同意見です。
今の中国が変わるのは、単純に中国国民の力だけでは不可能です。 国連や他国が、中国共産党に圧力を与えて少しずつ改善されていくか、もしくは中国国内の内戦によって変わるか、どちらの可能性もあると思います。 どちらにせよ "暴力・金・ウソ" で支える国家は崩壊して、新しい民主国家として再構築されるべきだと思いますね。 ・・・ と、話が中国の未来へと大きくなったところで、ここで「おたぽる」らしく、話をマンガに戻したい。 孫氏は、マンガをどのような環境で描いているのか、今後どのような作品を描いていきたいのだろうか?
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現在は、アナログでペン入れをした後に、スキャナーでパソコンに取り込んで、デジタルで仕上げています。 マッキントッシュ環境で、メインのソフトは『クリップスタジオ』で描いていますね。 中国のマンガ家志望の大学生に、背景のトレースや、トーン貼りを頼んでいます。 もともと僕は、熱血の少年マンガを描きたかったんですよ。 ただ、「少年週刊ジャンプ(集英社)」などに応募したり、持ち込みしたりしたけれど、反応はよくありませんでした。
日本のマンガ雑誌で受賞したのはラブコメ作品で、自分はラブコメが得意と気がついたので、今はラブコメばかり描いていますね。 露骨なエロ描写は描きませんけど、ちょっとエッチな青春ドラマを描いていきたいです。 読者を萌え死にさせるような女の子キャラを描きたいので(笑)。 実際の恋愛に関しては、現在独身で、彼女募集中です。
昔は、愛国心の強い中国人女性と付き合っていたのですが、日本が好きという気持ちがばれないようにいつもストレスを感じていました。 胸が痛む思い出ですね。 なので今は、日本人女性と恋愛や結婚がしたいな、と思っています。 最後に、孫向文氏が選ぶ、日本のマンガベスト 5 を教えてもらった。
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『聖闘士星矢』 : 世界観、独自の戦闘方法、聖衣のデザイン ・・・ などなど、心に撃たれた作品です。 初めて読んだのは 80 年代頃で、海賊版でした。 中国のテレビ局で、毎日夕方にアニメを放送していたのを観ていましたね。
『きまぐれオレンジロード』 : 初めて読んだラブコメ作品でした。 マンガの貸本屋で、台湾版をレンタルして読んだんです。 「日本の学生のような恋愛がしたいな」と思いましたね。 それに、まつもと泉さんの絵柄がとてもかわいかったんです。 視覚的に心打たれました。 この作品は、アニメの音楽も大好きで、その影響で昭和のアイドルが好きになりました。
『寄生獣』 : 先を読まずにはいられない、ストーリー、セリフ回しがすばらしい作品です。 映画、アニメ共にとても楽しみにしています。 中国では、『寄生獣』は正規版では出版できないため、初めは違法アップロードサイトで読んだんです。
『進撃の巨人』 : 中国に住む中国人にとっては、とても共感しやすい世界観だと思います。 そして立体機動装置などのデザインもとてもかっこいいですね。 自分はなかなかこういう作品を描けないので、尊敬しています。 当時は中国では入手困難でしたが、来日の際に正規版を購入しました。
『聲の形』 : イジメっ子とイジメラレっ子の恋愛を主軸にした作品ですね。 とても新鮮だと思いました。 主人公たちの微妙な感情描写がとてもよく描けていますし、脇役の個性もとても面白いですね。 近年のラブコメの中では最もオススメの作品です。
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マンガを愛し、日本の作品を愛し、中国共産党と戦う孫氏。 彼の熱い思いが、この "反中共本" から多くの人に届くことを願いたい。 (村田らむ、Otapol = 11-2-14)
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