【ヨドバシ "超 3 密" 状態でパニック寸前、警察沙汰も】 転売ヤーの目的はマスクではなく …

「密閉、密集、密接の『3 密』を避けてください。」 安倍晋三総理をはじめ、行政機関が繰り返し呼びかけている「3 密」の回避。 4 月 7 日の緊急事態宣言以降は、多くの国民が外出を控えており、さすがに東京でも街中は閑散としている。 しかし緊急事態宣言の直前から、"ある場所" には大勢の人が殺到し、極度の "3 密" 状態が発生。 問題視されているのだ。

「私は 4 月 4 日、どうしても必要なものがあって家電量販店を回っていました。 マスクをして、なるべく人を近づかないように気をつけていました。 しかし、開店直前に『ビックカメラ有楽町店』に到着したのですが、店外には 100 人近い長蛇の列ができていた。 それが開店と同時に店に流れ込んだんです。 その後、上野にある『ヨドバシカメラマルチメディア上野』へ行ったのですが、同じように 100 人以上がレジ周辺を埋め尽くしていました。 上野は花見のシーズンで普段は混雑している時期ですが、外国人観光客が減ったために街全体はガランとしていたので、そこだけが異様な光景となっていました。」

この日、大勢の客が殺到したのは上野と有楽町のカメラ店だけではない。 秋葉原でも同様の光景が広がっていたという。 「『ヨドバシカメラマルチメディア Akiba』は、床が見えないほどの人たちでフロアが埋め尽くされていました。 ざっと見る限り、150 人くらいは密集していたのではないでしょうか。 みんな殺気立っていて、"3 密" なんて気にしている様子はなかった。 マスクをしていた人も多かったのですが、あんな状態では気休めにもならない。 収拾がつかなくなって、警察も出動していました。(ヨドバシカメラに居合わせた客)」

なぜ、外出自粛要請の中、家電量販店にこれほどの人が殺到したのか。 「この人たちの多くは『転売ヤー』ですよ」と語るのは、自身も転売を生業とする A 氏だ。 「転売ヤー」とは転売業者のこと。転売ヤーによるマスクやチケットの高額転売は社会問題にもなっている。

目当ては「Nintendo Switch」と人気ソフト

「実はこの日、これらの店舗には、家庭用ゲーム機『Nintendo Switch (ニンテンドースイッチ)』と人気のソフト『リングフィット アドベンチャー』が大量に入荷するという情報が出回ったんです。 集まったのはそれを狙った転売ヤーです。 新型コロナの影響から自宅で過ごす時間が長くなり、世界的に家庭用ゲーム機を欲しがる人が増えているんです。 現在『Nintendo Switch』はほぼ完売状態で、滅多に手に入りません。 3 月に発売されたばかりの専用ゲームソフト『あつまれ どうぶつの森』は "巣ごもり需要" で品切れ続出です。 転売ヤーにとってこんな好機はない。(同前)」

さらに、新型コロナの影響でバイトをクビになった学生や、時間に余裕がある主婦も転売に参戦し始めているという。 それが "仕入れ競争" に拍車をかけているのだ。 「『Nintendo Switch』が高く売れるという情報はかなり広まっていたので、転売ヤーではない一般層も多かったんですよ。 しかしそういう人は販売ルートを持っていないので、売る場所に困っていることが多い。 中古ゲーム販売店などにもっていくのが関の山ですが、大した利益にはなりません。(同前)」

「Nintendo Switch」は中国での需要が高い

A 氏はそういった転売初心者をターゲットに、Twitter でこう発信した。

《Switch ネオンカラー、グレー各 46,000 円で買い取ります。 複数ある場合は値段優遇します。 有楽町周辺で買い取りします。》

「この投稿を見て、大勢の主婦や学生が連絡をしてくる。 僕はこうやって定価 3 万 2,970 円(税込)の『Nintendo Switch』を 4 万 6,000 円から 4 万 8,000 円で集めるんです。 そして 5 万 1,000 円から 5 万 3,000 円で中国人富裕層に流しています。 『Nintendo Switch』は特に中国での需要が高く、高額で転売できる。 この仲介で 1 台あたり約 5,000 円から 7,000 円の利益が出ます。 仲介だけなら家電量販店に並ぶ必要もないので楽なんです。(同前)」 転売目的の人々が殺到した「ビックカメラ有楽町店」では警察が出動する事態にも発展した。 実際に「警察沙汰に巻き込まれた」という客が取材に応じた。

「店員さんは相当ピリピリしていて、精神的に削られた。」 「開店前から並んだ人たちには整理券が配られました。 入店時に整理券をもらって、そのままゲームコーナーに並ぶという流れでしたが、僕は並んでいる途中でトイレに行きたくなり、いったん列を離れてしまった。その後、再び列に戻ると、店員さんに『あなたはもう購入の権利がありません』と言われました。 『そんなこと聞いていない!』と主張しても『アナウンスしていますので』の一点張り。 僕は『館内放送があったわけでもなく、整理券にも記載がない』と反論しましたが、店員さんも譲ってくれませんでした。」

言い争いはヒートアップ。 あたりは騒然としていたという。 「すると警察官が仲裁に駆けつけたのです。 事情を説明して整理券を見せると、警察官が店員さんに対し、『整理券もあるんだし、売ってあげてくださいよ』と説得してくれました。 結果、僕は無事に『Nintendo Switch』を購入できました。 でも長時間並んでいた人たちや、店員さんは相当ピリピリしていて、精神的に削られました。 もうこの時期に家電量販店へは行きたくありません。(同前)」

ヨドバシカメラでは秋葉原の店舗でも警察が出動する事態となった。 その原因は「デマ」だったという。 「もともと上野店で『Nintendo Switch』の大量入荷があると Twitter で拡散されていたんです。 それで誰かが《上野店に入荷があるなら秋葉原店でもあるんじゃないか》と予想したら、その情報がねじ曲がって、《アキバでも大量入荷があるらしい》と拡散された。 それで大勢の人が集まってしまったようです。(転売ヤーの B 氏)」 だが、秋葉原店には大量入荷がないため、客に整理券が配られることもなく、「ヨドバシ Akiba」の店内は混乱を極めた。

「集まった人たちは、レジ前や搬入エレベーター前に張り付いて入荷を待っていました。 そして少しでも Switch に似たようなものがあるとレジに殺到。 そんなことがずっと繰り返されていました。 フロアにぎっちりと転売ヤーが密集し、それが長時間続いた。 一般客はレジにたどり着けないような状態でした。 さすがに危ないということで店側が通報したのか、途中で警察が駆け付けました。(同前)」

ヨドバシカメラは「マルチメディア横浜店」でスタッフの 1 人へ感染していたことが判明したため、4 月 9 日の夜から急きょ店舗を休業とした。 メーカーから販売促進のために店舗に派遣されてきたスタッフで、3 月末まで働いていたという。 「4 月 2 日に発熱の症状が出て、7 日に感染が確認されたそうです。 感染経路は分かっておらず、濃厚接触の可能性のある従業員は自宅待機にしているということです。」 (文春 = 4-12-20)


温泉宿を "爆" 買収 中国人は地方観光の救世主か

インバウンド裏街道を行く

2015 年度の訪日外国人(インバウンド)数が 2,000 万人を超えた。 観光地は盛り上がりをみせているが、その裏で異変が起きている。 温泉地にある旅館やホテルの経営者が次々と外国人に入れ替わっているのだ。 政府や自治体が「観光立国」に熱を上げる一方、経営難や後継者不足にあえぐ旅館やホテルの衰退は確実に進んでいた。 経営を断念した売却物件を買っていくのは外国人ばかりで、その多くは中国人だ。 日本の温泉旅館を狙う彼らの思惑はどこにあるのか。

10 億円の物件を即決

「この場でサインしましょう。」 中国人男性が 3 軒の旅館購入を決めた瞬間だった。 総額 10 億円にのぼる。 中国人男性は「詳細を詰めるために近いうちに来日する」といって中国に帰っていった。 「最初から買うつもりの場合は値引き交渉をしない。 そして即決する。」 物件を仲介したホテル旅館経営研究所(東京・中央)代表の辻右資はあらためて強く実感した。

東京・銀座にある辻のオフィスに、中国人男性が訪れたのは 3 月中旬のこと。 約束の 10 時前に受付のベルを鳴らしたその男性は、上海で複数のホテルを運営している経営者だという。 そこから 4 時間に及ぶ商談が始まった。

「この旅館の敷地は建て増しできるか」、「運営は誰かに任せられるのか」 - -。 中国人の男性は電卓をたたきながら細かい質問をしていく。 最大の関心事は投資に対するリターン(利益)がどのくらいあるかだった。 辻が提案したのは日本各地の有名温泉地にある 5 カ所の旅館とホテル。 売却額はどれも 3 億円以上になる。 なかには高級旅館で知られる関東近郊の老舗旅館もあった。 「いずれの物件も企業や個人が所有していたが、オーナーの高齢化で後継者がみつからず、やむなく手放すことにしたようだ。(辻)」

金沢、箱根、蔵王 …。 中国人の男性は辻と面談する前、6 泊 7 日の日程で 5 カ所の物件をすべて駆け足で視察し、うち 2 カ所は実際に宿泊した。 通訳や物件の案内役など 3 人を引き連れた「視察ツアー」の目的は、購入する価値があるかどうか。 その見極めだった。 来訪の目的は旅館側に明かさず、あくまで一般の旅行者としてふるまったという。

男性はもともと日本の温泉が好きで、観光で何度も来日していた。 真剣な表情で建物の状態や客室スタッフのサービスなどを見ていた。 夕食にも舌鼓を打った。 同行した案内役は「本気で買うつもりできている」と感じたという。

経営だけ入れ替わる

外国人による旅館やホテルの買収は増えているが、正確な実態をつかむのは難しいとされる。 昨年 12 月に「雲海テラス」で知られる星野リゾート・トマム(北海道占冠村)の全株式を中国企業が 180 億円で取得した買収劇。 これは大きく報道されたが、通常は表に出ることは少ないという。 宿泊客が知らない間にオーナーが入れ替わっているケースがほとんどだ。 経営者が交代しても従業員はそのまま雇用されることが多い。

不動産シンクタンクの都市未来総合研究所(東京・中央)によると、公表された案件をまとめただけでも外国企業による旅館・ホテルの売買件数は 2015 年に 46 件と前年比 2.7 倍になった。 主任研究員の下向井邦博は増加の背景について「訪日外国人が増え、大都市では旅館やホテルの稼働率が上がっている。 客室単価も上昇し、投資先として魅力が高いと感じている。」とみる。

一気に増え始めたのは 2020 年の東京五輪・パラリンピック開催が決まってからだ。 売買を仲介する辻のもとには毎日のように購入を打診する問い合わせが入る。 売却リストには箱根や伊豆、金沢、湯布院など日本の代表的な温泉地が並ぶ。 最近は中国人だけでなく、台湾やシンガポールの投資家からも問い合わせが増えている。 「この物件の概要を送ってほしい。」 資料を受け取って気に入ると、あとは現地を見て購入するかどうかすぐ決断する。 一見すると強気にも思えるが、彼らが当て込んでいるのが急増する訪日外国人だ。

日本政府が政策として推し進める訪日外国人の誘致。 その数は 2015 年度に 2,000 万人を突破した。 2020 年には 2 倍の 4,000 万人に増やす計画だ。 外国人ツアー客の観光プランは東京、大阪、富士山などいわゆる「ゴールデンルート」を回るものだが、大都市ではホテルなどの部屋不足が深刻化している。 その波は地方の温泉地にも波及し、各地で苦境にあえぐ旅館やホテルにとって「救世主」となる可能性を持っている。

客も中国人に絞る

「手を挙げたのは中国人だけだった。」 2014 年冬、大阪府内にある温泉ホテルを売却した不動産会社の関係者は当時を振り返る。 大阪市内から離れた場所にあるホテルは客室数 35、築 40 年以上で老朽化が目立っていた。 客数も減少し、経営を立て直すには部屋のリニューアルや浴室の改修などに 1 億円以上が必要だった。 ただ改修しても客数が上向く見込みはなく、この不動産会社は売却を決めたという。

買い手を募ったが、名乗りを挙げた 3 人すべてが中国人だった。 物件としての魅力はそれほど高くはなかったが、「ゴールデンルートにあったことで救われた」という。 売却額は 1 億 5,000 万円。 購入したのは訪日外国人を専門に扱う旅行会社の中国人経営者だった。 ところが所有権が移った直後、ホテルは様変わりする。 宿泊客のターゲットを中国人に絞ったのだ。

部屋ごとに出していた朝食はバイキング形式になり、宴会場として使っていた大広間は客室に改装。 家族客の自家用車がとまっていた駐車場は大型観光バスで埋まった。 その結果、日本人客はあっという間に減っていったという。 ただ、客室の稼働率は急上昇し、「ほぼ満室に近い状態になっている。(関係者)」 運営コストをギリギリまで抑えることで格安の中国人ツアーを取り込み、利益を上げる戦略だ。 買収された旅館やホテルの多くは中国人専門の宿泊施設へと変わる。 それは地元にとっても決して悪いことばかりではないようだ。

ある旅館の復活

桃の産地で知られる山梨県笛吹市。 東京から電車で 1 時間半ほどの「奥座敷」といわれる石和温泉がある。 全盛期には年間 300 万人いた日本人の宿泊者は半分弱にまで落ち込んでいる。 最近、目立つようになったのが外国人だ。 なかでも 6 割を占める中国人は 2 - 3 割増で伸びている。 そして、この地でも数年前から中国系企業による買収が相次いでいる。 石和温泉で営業している旅館・ホテルは 49。 このうち 6 施設を中国人経営者が所有する。

その一つが「緑水亭 やまぶき」だ。 旅館は経営破綻した後、いったん日本語学校になったがそれを中国人が買い取った。 旅館にはいまも日本語学校の名残を感じる看板が残されている。 JR 石和温泉駅前の観光案内所で「いまは営業していないと思いますよ」と言われたが、実際には営業は続いていた。 なぜ地元では知られていないのか。

元留学生だという中国人支配人に聞くと、「うちは PR する必要がない。 中国の旅行会社から直接、ツアー客を紹介されるから。」と説明する。 毎日 40 人程度の中国人ツアー客が宿泊するという。 昼過ぎの館内は電気が消されており、薄暗い。 到着はいつも夜 7 時ごろで、翌朝には次の宿泊地へ慌ただしく出発する。 滞在中はホテルの外に出ることがないという。 「日本人のようにタクシーに乗って買い物や飲みに行くことはない。 お金は落としていかないよね。」 タクシー運転手は複雑な表情で話す。

それでも地元で歓迎の声は少なくない。 石和温泉旅館共同組合の理事長で、自らも旅館を経営する山下安広は「中国系の旅館とは共存共栄でやっている」と話す。 日本人宿泊者が減り続けるなか、「外国人が来ないと経営が成り立たない」からだ。 中国系の旅館だけでは対応できない宿泊客を紹介してもらうことがある。 代わりに日本の接客スタイルである「おもてなし」を教えている。

ステータス目的も

中国人による旅館への投資は必ずしも利益を上げる目的だけではないようだ。 東京都北区にある印刷会社、アールコーポレーション代表の舘正子は中国で生まれ、30 年前に来日して日本国籍を取得した。 中国の北京市にも事務所を持ち、日本企業の海外進出を支援するビジネスも手がける。 彼女の幅広い人脈を見込んで最近、中国の富裕層から「日本の温泉旅館を案内してほしい」という要望が増えているという。

1 月に来日した中国・北京に住む不動産会社の男性経営者は、箱根や鬼怒川温泉、石和温泉に宿泊し、いたく気に入った様子だった。 「いい物件があれば買いたい」と話したという。 目的は旅館やホテルへの投資の見返りというより、「ステータス」にあると舘はみている。 富裕層の多くは日本の食べ物や温泉が好きでしばしば観光に訪れている。ブランド価値の高い有名旅館を自分の所有にできることが、彼らのプライドをくすぐるようだ。

そして、もう一つの理由が「資産の移転」だ。 中国の富裕層は資産を国内だけでなく、海外にも分散して保有している。 国内の不動産市場が冷え込んできており、資産を海外に移す動きが加速している。 日本もその有力な候補となっているのだ。 日本の地価はずっと下がり続けており、今が買い時と判断している。

宿泊施設の経営に詳しい井門観光研究所(東京・千代田)代表の井門隆夫は「中小規模の旅館は老朽化した施設を改修する余裕がなく、客室の稼働率も低い」と指摘する。 復活のカギとなるのが急増する訪日外国人だ。 しかし、なかには外国人客のマナーの悪さを口実に積極的に受け入れをしない旅館も少なくないという。 そうした旅館の姿勢が井門にはもどかしく見える。 「客を増やす可能性があるのに動いていない。」

急増する訪日外国人は、投資家としても、顧客としても、地方の観光産業建て直しの鍵を握る。 一方、このブームが去れば何が残るかという不安も残る。 温泉地の旅館やホテルの経営者にとっては悩ましい選択だ。 (古山和弘、nikkei = 5-16-16)