「漁業より綿花」ソ連が無計画な水利用 縮んだアラル海

中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンにまたがる塩湖「アラル海」。 日本の東北地方とほぼ同じ広さの湖面積が、半世紀で 10 分の 1 にまで干上がった。 漁村は荒廃し、乾いた湖底から吹き寄せられた塩混じりの砂が町村を襲う。 「20 世紀最大の環境破壊」とも言われる。 アラル海が縮小した原因は、中央アジアを 2 千キロ以上流れてアラル海に注ぎ込む 2 本の大河の水を、無計画で大量に使ったためだ。

キルギスの天山山脈を源流とし、ウズベキスタンを通ってカザフスタンのアラル海北部に注ぐシルダリア川と、タジキスタンのパミール高原の源流からトルクメニスタンを経てウズベキスタンのアラル海南部に流れるアムダリア川だ。 これらの河川が農業用水に使われた歴史は古いが、第 2 次大戦後、ソ連の政策で綿花や水稲の灌漑農業が大きく拡大された。 アムダリア川から水をひく大規模なカラクム運河も建設された。 キルギスなど上流の国では水力発電にも使われる。

国連環境計画のデータによると、1960 年からの約 50 年間で灌漑農業用地が約 1.8 倍に増えた。 それと反比例するように、アラル海に注ぐ年間水量は 5 分の 1 以下になった。 ソ連崩壊後に河川流域の 5 カ国が設立したアラル海救済国際基金で、カザフスタン事務所長を務めるボラット・ベクニヤズさんは「綿花は軍事産業にも使われる貴重な戦略物資だった。 それと比べると、漁業は重要ではなかった。」とソ連時代の状況を説明する。

ベクニヤズさんは 84 年に大学を卒業した後、アラル海問題に携わったが、当時はアラル海に関する論文は国家秘密で、こうした問題は公表されていなかった。 「80 年代後半のペレストロイカ時代に情報公開され、アラル海問題がようやく知られるようになった。」 (アラル海 = 神田明美、中川仁樹、asahi = 8-16-18)

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アラル海にダム、魚を戻す試み まだ最盛期の 7 分の 1

中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンにまたがる塩湖「アラル海」。 日本の東北地方とほぼ同じ広さの湖面積が、半世紀で 10 分の 1 にまで干上がった。 漁業は壊滅し、最盛期には年間 5 万トンあったアラル海の漁獲量は 70 - 80 年代ごろは 1 千トンにまで激減した。

カザフスタンは今、ナザルバエフ大統領が主導し、北部で漁業の復活を目指している。 2005 年には、世界銀行の支援でシルダリア川河口の南側にコクアラルダムが完成した。 南部に流れ出る水をせき止め水量を保つのが目的。 20 メートルほどだった水深は 42 メートルまで回復した。 1960 年ごろの 53 メートルには届かないが、シルダリア川から 23 種類の魚が戻ったという。

ダム近くの湖岸に張ったテントや小屋で、300 - 400 人の漁師が寝泊まりしながら漁をしている。 ガミン・ジャイサンバエフさん (50) は 30 キロほど離れたカラテレン村から漁に来ている。 父も祖父も漁師だった。 だが、自身が大人になったとき漁業は衰退していた。 村にある音楽クラブで働いたが、ダムの建設が始まったころ漁師になった。 「魚が戻ってきた。 神様のおかげです。」 息子のアイダル・バイマガンベトフさん (24) も漁師で、同じ湖岸から漁に出る。

一時は魚の冷蔵会社がすべて撤退した。 だが、今は 3 社が操業する。 とはいえ、アラル海の漁獲量は最盛期の 7 分の 1 程度だ。 カラテレン村のマルグラン・ジェクセムビエフさん (51) は「アラル海の行く末に確信が持てない。 子どもや孫には都市に出て幸せに暮らしてほしい。」と言う。 (アラル海 = 神田明美、中川仁樹、asahi = 8-15-18)

干上がったアラル海のいま 環境破壊、報いの現場を歩く

中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンにまたがる塩湖「アラル海」。 日本の東北地方とほぼ同じ広さの湖面積が、わずか半世紀で 10 分の 1 にまで干上がった。 漁村は荒廃し、乾いた湖底から吹き寄せられた塩混じりの砂が町村を襲う。 ソ連時代の無謀な水資源計画のつけを、人々は今も払い続けている。

アラル海 - 20 世紀最大の環境破壊

アラル海北部。 カザフスタンのボゲン村。 白い大地が見渡す限り続いていた。 その上を家畜のラクダが村人に引かれて悠々と歩いていく。 雪の大地を行くようだが、白く見えているのは塩湖が干上がって析出した塩だ。 かつてはアラル海に面した漁村だった。 湖面は今やはるか 10 キロ先。 漁業は衰退し、塩混じりの砂がたまって学校が移転する事態も起きた。

アラル海の面積は 1960 年ごろは 6 万 8 千平方キロだったが、近年は 10 分の 1 に。 干上がった原因は、ソ連が第2次大戦後に実施した大規模な灌漑(かんがい)政策だ。アラル海に注ぐ、2 千キロ以上を流れるシルダリア川とアムダリア川の水を、流域の綿花と水稲の栽培拡大に使った。 国連環境計画によると、60 年に約 450 万ヘクタールだった灌漑農業用地は、2012 年には約 800 万ヘクタールへと増加。 それと引き換えに、アラル海に注ぐ年間水量は 5 分の 1 以下になった。 持続可能でない水利用は、アラル海の水量を保てる量をはるかに超えた。

ボゲン村のような光景はアラル海のいたる所で見られる。 カザフスタン・クズルオルダ州政府の資料などから推測すると、砂に追われ移住を余儀なくされた環境移民は、アラル海周辺で数万人規模に上るとみられる。 「20 世紀最大の環境破壊」とも言われる。 クズルオルダ州のクリムベク・クシェルバエフ知事 (63) は「アラル海の危機は、自然に対する人間の無責任さの実例だ。 綿花や米を栽培する必要があったしても、環境と人々の健康に回復不能な損害を与えていいことにはならない。」と話す。 (アラル海 = 神田明美、中川仁樹、asahi = 7-5-18)


鹿児島・奄美周辺でサンゴ半減も 昨夏の高水温原因、環境省

環境省は、6 - 7 月に鹿児島県・奄美大島周辺と沖縄県のサンゴ礁を調べた結果、奄美大島に近い加計呂麻島で、生きたサンゴの割合が昨夏に比べ半減した場所が確認されたと発表した。 「昨年の高水温で白化現象が起き、死んだとみられる」としている。

加計呂麻島の北岸では、昨年 8 月の調査時は海底に占める生きたサンゴの面積の割合が 8 割だった。 今年 6 月には多くが死んで、生きているサンゴは 4 割に激減した。 サンゴは海水温が 30 度程度を超えた状態が続くと、体内に共生し、栄養分などを供給する褐虫藻が抜けて白化する。 白化が長く続くと死んでしまい、藻が生えて黒ずんで見える。 (kyodo = 8-7-18)


中国・華北平原は、2070 年以降、熱波で居住できなくなる、との研究結果

<米マサチューセッツ工科大学の研究チームは、中国の華北高原が、気候変動と集中灌漑によって、生命に危険を及ぼすほどの猛暑に脅かされているとの研究を公開した。>

2018 年 7 月以降、日本のみならず、東アジア・欧州・北米などでも、記録的な猛暑が続いているが、近い将来、非常に高い温度と湿度によって、人類が居住できなくなる地域が増える可能性を示す研究結果が明らかとなった。

生命に危険を及ぼす暑さに

米マサチューセッツ工科大学 (MIT) の研究チームは、2018 年 7 月 31 日、科学オンラインジャーナル「ネイチャー・コミュニケーションズ」において、「中国の華北高原が、気候変動と集中灌漑によって、生命に危険を及ぼすほどの猛暑に脅かされている」との研究論文を公開した。

この研究チームでは、2015 年 10 月に、カタールのドーハ、アラブ首長国連邦 (UAE) のアブダビ、ドバイなど、ペルシャ湾岸地域で 2050 年以降に厳しい猛暑が襲う可能性を指摘しているほか、2017 年 8 月には、インドやパキスタン、バングラデシュといった南アジア地域でも数十年以内に厳しい猛暑が始まるとの予測を示していた。しかしながら、華北平原で予測されている猛暑は、ペルシャ湾岸や南アジアよりもリスクの高いものだと警告している。

北緯 34 度から 41 度までの約 40 万平方キロメートルに広がる華北平原は、中国最大の沖積平野で、人口およそ 4 億人を擁する人口密度の高い地域であるとともに、灌漑農業が盛んなエリアでもある。 とりわけ、集中灌漑は、温度と湿度を上昇させ、より厳しい熱波をもたらすことがあるという。

6 時間以上生存することは困難

研究チームは、これまでのペルシャ湾岸地域や南アジアを対象とした研究と同様、暑い天候下での生存可能性を評価する指標として、気温と湿度を複合した「湿球温度」を採用。米パデュー大学と豪ニューサウスウェールズ大学の共同研究プロジェクトによれば「湿球温度が摂氏 35 度(華氏 95 度)に達すると、健康な人間でさえ屋外で 6 時間以上生存することは困難」とされている。

研究チームでは、高解像度のマサチューセッツ工科大学地域気候モデル (MRCM) を使ったシミュレーションによって、気候変動が灌漑という人為的影響にさらなる作用をもたらし、華北高原における猛暑のリスクを高めるのかを予測したところ、温室効果ガスの排出量が大幅に削減されないかぎり、2070 年から 2100 年までの間に、湿球温度 35 度以上の猛暑に見舞われる可能性があることがわかった。 とりわけ、気候変動と灌漑との複合的影響による湿球温度の上昇幅は摂氏 3.9 度で、灌漑による上昇幅(0.5 度)と気候変動による上昇幅(2.9 度)とを足した数値よりも高くなっている。

気候変動は、一人ひとりの健康の喫緊の課題に

世界保健機関 (WHO) でも、2030 年から 2050 年までの間に、熱中症による年間死亡者数が 3 万 8,000 人規模になると予測し、気候変動がもたらす健康影響にも注意を呼びかけている。 気候変動の防止は、地球環境の保護のみならず、私たち一人ひとりの健康を守る観点からも、すでに世界全体で取り組むべき喫緊の課題になっているようだ。 (松岡由希子、NewsWeek = 8-2-18)


地球温暖化 CO2 増加でコメの栄養減 6 億人に影響も

大気中の二酸化炭素 (CO2) 濃度が上昇すると、コメに含まれる栄養素が減少するとの研究結果を、日米中の研究チームが米科学誌サイエンス・アドバンシズに発表した。 今のペースで CO2 濃度が上昇すると、今世紀末までに、たんぱく質は 10%、ビタミン B 群は 12% 以上減少し、アジアを中心に少なくとも約 6 億人の栄養摂取に影響する可能性があるという。

国連の気候変動に関する政府間パネル (IPCC) の報告書によると、地球温暖化に伴って今世紀末から 22 世紀初頭にかけて穀物の収量が大幅に減少する可能性が高いという。 収量減に加えて栄養も低下することで、コメを主食とする地域の貧困層の栄養不足が深刻化する恐れがある。 世界気象機関によると、CO2 の世界平均濃度は 2016 年時点で 403.3ppm (ppm は 100 万分の 1)。 IPCC の報告書では、今世紀末までに 570ppm に上昇する可能性が非常に高いとされている。

チームは、イネのそばに CO2 を放出し高濃度状態にできる設備を使い、茨城県つくばみらい市と中国江蘇省の水田で実験。 濃度を 568 - 590ppm まで上昇させてコシヒカリなど 18 品種のイネを栽培し、収穫したコメに含まれる栄養素を調べた。 その結果、通常の水田で育てたコメと比べ、たんぱく質は平均で 10.3%、鉄は 8%、亜鉛は 5.1% 減少した。 ビタミン B 群では、▽ B1 = 17.1% 減、▽ B2 = 16.6% 減、▽ B5 = 12.7% 減、▽ B9 = 30.3% 減 - - となった。

チームの小林和彦・東京大名誉教授(農業気象学)によると、CO2 の吸収によって炭素の取り込み量が増えるのに対し、栄養素の合成に必要な窒素の吸収が追い付かないのが原因とみられる。 CO2 が高濃度でも栄養素が減らないような品種を開発する対策などが考えられるが、小林名誉教授は「必要とする貧困層に確実に届かなければ意味がなく、品種改良は対策の一部でしかない。 CO2 を大量に排出してきた先進国などが責任を負い、影響を受ける地域の人が必要とする食料を得られる仕組みを作ることが必要だ」と指摘する。 (大場あい、mainichi = 7-21-18)


アップル、中国で 300 億円超のファンドを設立 再生可能エネルギーに投資

  • アップルはパーツのサプライヤーに、アップルストアや本社と同様に再生可能エネルギーの使用を求めている
  • そのため、中国において、サプライヤーとともに 3 億ドルのファンドを設立、ソーラー発電や風力発電のプロジェクトに投資していく
  • ファンドはドイツ銀行傘下の資産運用会社 DWS グループが運用する

アップルは、その巨大な資金を中国のソーラー発電と風力発電の普及に投入する。 同社は部品サプライヤー 10 社とともに 3 億ドル(約 340 億円)のファンドを設立、今後 40 年にわたって中国の再生可能エネルギーに投資していく。 チャイナ・クリーン・エネルギー・ファンド (China Clean Energy Fund) と名付けられたファンドは、ドイツ銀行傘下の資産運用会社 DWS グループが運用する。

ファンドが新しい発電事業者に投資をすることで、アップルのサプライヤーは再生可能エネルギーを利用しやすくなる。 中国には、数多くのアップルのサプライヤーが存在する。 つまり、多くの風力発電所やソーラー発電所が生まれることになる。 アップルは 3 億ドルのうち、自社がいくら出資したのか、10 社のサプライヤーがいくら出資したのかは明らかにしていない。 同社はトータルで 1 ギガワットを超えるプロジェクトに投資する予定と語った。

またファンド設立には、規模の小さなサプライヤーが再生可能エネルギーを利用しやすい環境をつくる狙いもある。 大規模なサプライヤーなら再生可能エネルギーの事業者と料金交渉ができるが、小規模な事業者には難しい。 アップルが 2018 年はじめに、サプライヤーに 100% 再生可能エネルギーの使用を求めたことも見逃せない。 同社は 2018 年 4 月、本社、アップルパークを含め、世界各地にある自社施設は 100% 再生可能エネルギーで電力を賄っていると発表した。 (Kif Leswing、BusinessInsider = 7-13-18)

ファンドに出資するサプライーは以下のとおり。

  • Catcher Technology
  • Compal Electronics
  • Corning Incorporated
  • Golden Arrow
  • Jabil
  • Luxshare-ICT
  • Pegatron
  • Solvay
  • Sunway Communication
  • Wistron

「白くない」タージ・マハル … 環境汚染で黄ばみ

白く美しい外観で知られるインド北部の世界文化遺産タージ・マハルの黄ばみが深刻化している。 周辺環境の汚染激化が主な要因とみられている。 美白用の泥パックを含む様々な対策は、決め手を欠いている。 「2011 年に初めて訪れた時は、もっと白かったが、今はくすんで見え、黄色い染みが目立つ。 がっかりした。」 西部マハラシュトラ州から訪れた大学職員シダート・シンガルさん (30) は話した。 タージ・マハルで働く観光ガイドたちも「かつてはもっと白く、輝いていた」と口をそろえる。

タージ・マハルの変色が指摘されるようになったのは 30 年ほど前だ。 近くに建設された工場の排煙が原因とされ、最高裁は 1993 年に近隣にあった 200 以上の工場の閉鎖を命じた。 だが、変色は止まらず、この 10 年ほどは特にひどくなってきたという。 周辺の自動車増加や野焼きのすすなどで進む大気汚染が一因とされ、世界保健機関 (WHO) によると、タージ・マハルがある北部アグラは、発がん性のある微小粒子状物質 (PM2.5) の濃度が大気 1 立方メートルあたり 131 マイクロ・グラム(2016 年平均)と、WHO の基準(年平均同 10 マイクロ・グラム)を大きく超えている。 (yomiuri = 7-13-18)


中国の廃プラスティック輸入規制は、世界の環境汚染に歯止めをかけるか

中国が廃プラスティックの輸入規制を始めたことで、これらが周辺諸国に溢れる事態が起き始めている。 処理しきれないプラスティックが積み上がるなか、世界各国ではプラスティックの使用見直しやリサイクル率の向上、使い捨てプラスティックへの課税などの動きが始まった。

長い間、中国は世界のプラスティックごみの廃棄場だった。 1990 年代の中国市場は、廃プラスティックを輸出可能な各種製品に再生して利益を上げられると考えていた。 そのうえ世界のさまざまな都市にとっては、自分たちで廃プラスティックを処理するよりも中国に輸出するほうが安上がりだった。 中国はプラスティックを安く手に入れ、輸出国はごみを処分できたのである。

ところが 2017 年 11 月、中国はもうたくさんだと声を上げ、汚染されたプラスティックの受け入れを止めた。 行き場をなくしたプラスティックはヴェトナムや韓国、タイといった近隣諸国に流れたが、そうした国には中国が拒絶している廃棄物を受け入れるインフラがないため、プラスティックが積み上がっている。

『Science Advances』で 6 月 20 日(米国時間)に発表された論文によると、2030 年までにストローや袋、ペットボトルのような廃棄物の行き場はなくなっていき、その量は 1 億 1,100 万トンにもおよぶという。 地球上の全人類が、体重の 4 分の 1 に相当する量のほとんどが使い捨てのポリマープラスティックを捨てながら、大きな廃棄物の山をつくっているような状態だ。

中国の新たな政策は廃棄物の山を急激に増やしてしまうが、そこに落ち度はない。 ジョージア大学で材料科学を研究する大学院生で、論文の主執筆者であるエイミー・ブルックスは、「中国はこの 28 年間、廃プラスティックを輸入してきました。 そしてしばらくして、廃棄物処理について世界中からあてにされていると気づいたのです。」と語る。 2016 年、中国は自国に加えて 43 カ国もの廃棄物を処理していた。 1988 年以降、中国へ輸出されたプラスティックの 90 パーセント近くは高所得国から来たものだった。 欧州連合 (EU) が最大の輸出元であり、北米と日本がそれに続いた。

汚染レベルを下げるという「抜け道」

だが、抜け道がないわけではない。 中国はすべてのプラスティックを拒否しているわけではないのだ。 もともとプラスティックを輸出していた国々は、海外での廃棄物リサイクルを続ける「抜け穴」を見つけられるかもしれない。 汚染物質の含有量が多いほど、プラスティックのリサイクルは難しい。 オレンジジュースのペットボトルに残った果肉を洗い流すのを忘れると、機械がべとべとになり、リサイクル製品の価値が下がりかねない。 ほとんどの工場はまだ手作業で仕分けしているので、作業員たちは病気になったり怪我をしたりする恐れがある。

そこで中国は 2013 年、プラスティックに含まれる汚染物質の量に厳しい制限を課す「グリーンフェンス」政策を打ち出した。 17 年 11 月には禁止対象が拡大され、すべての非工業用廃プラスティックも制限されるようになった。 だが、例外もある。 再生プラスティックが非常に厳しい要件を満たしていれば、中国への輸出を続けることができるのだ。 サンフランシスコは現在、その規定に従っている。

サンフランシスコのような米国の都市は、ほかの国々に資源ごみを輸出せずに廃棄物ゼロを達成するためのインフラがない。 そこで、サンフランシスコのごみを処理する廃棄物回収会社 Recology は、2017 年最後の数カ月間に、現在「最大 5 パーセント」の汚染レベルを「最大 1 パーセント」に下げるべく、仕分け担当者をさらに雇用し、リサイクル過程をペースダウンした。 現在は、この制限がさらにきつくなり、0.5 パーセントになっている。 この基準を下回っていれば、中国に輸出し続けることができる。

「Recology は、大量の素材を高精度で仕分けすることに尽力してきました。」 サンフランシスコの商業廃棄物ゼロ部門シニアコーディネーターを務めるジャック・メイシーはそう語る。 「素材の汚染レヴェルを下げられれば、そのぶん得られるものが増えます。 選別が巧みに行われるほど、リサイクル可能な積荷を売買向けに用意することがいっそう簡単になるのです。」

世界中でプラスティック規制が進む可能性

サンフランシスコのようなインフラやリソースがすべての都市にあるわけではないし、中国は廃棄物の受け入れを拒否し続けるだろう。 そうなると、大量のプラスティックが行き場を失い、最終的には各国に溜まっていく。 それらは焼却処分されるかもしれないし、埋め立て地に積まれていく可能性もある。 中国の近隣諸国が余剰分を処理できなければ、周囲にプラスティックが流出する恐れもある。 そんなことになれば、水中の内分泌攪乱物質(いわゆる環境ホルモン)や海洋の汚染物質が増えるだろう。

ブルックスは現在のプラスティック処理をめぐる問題に関して、今後生じる廃棄物については政治家がもっとよい計画を立てたり、廃棄物を完全になくしたりすることを期待しているという。 同氏の研究結果では、取引されるプラスティックの約 90 パーセントは、使い捨てのポリマーだった。このデータに後押しされて、各国政府が使い捨てプラスティックを削減する規制を導入することをブルックスは願っている。 「わたしの夢は、これが十分に大きな警告となって、新たな国際協定の制定へと繋がっていくことです。」 中国の輸入中止を受け、EU はすでに使い捨てプラスティックへの課税を検討している。 サンフランシスコのように、廃棄物の汚染除去に乗り出す都市も今後増えるだろう。 あるいは、プラスティック全体の量を減らすことも始まるかもしれない。 (Ellen Airhart、Wired = 7-1-18)


家庭食品ロス、2030 年度までに 00 年度比半減 環境省

食べられるのに捨てられてしまう食べ物「食品ロス」の削減について、政府が初めて数値目標を設定する。 国連の持続可能な開発目標 (SDGs) に沿い、家庭での食品ロスの量を 2030 年度までに 00 年度比で半減させることを目指す。 環境省が改定中の「循環型社会形成推進基本計画」に盛り込み、月内にも閣議決定する見通し。

同省によると、国内の食品廃棄物は増加傾向で、15 年度には 2,842 万トンに上った。このうち食べ残しや食品メーカーの余剰在庫、小売店での売れ残りなどの食品ロスは、飲食店など事業所からが 357 万トン、家庭からが 289 万トンの計 646 万トンで 23% を占めた。 国連世界食糧計画 (WFP) が途上国や災害被災地などへ送る食糧援助量(320 万トン)の 2 倍を超える。 事業所から出る食品廃棄物は食品リサイクル法で家畜のえさや肥料などに再利用することが義務付けられているが、家庭から出る食品廃棄物には規制や指針がない。

地球温暖化の進行に伴い、世界的な食糧不足が深刻化する恐れがある。 そこで 15 年に採択された SDGs では、小売店や消費者レベルでの食料の廃棄を半減させる目標を掲げた。 環境省は基本計画の改定に合わせて、家庭の食品ロス対策に取り組むことにした。 環境省がまとめた国内の食品ロスに関する詳しい統計は、12 年度以降の分しかない。 同省は基準となる 00 年度の食品ロスの量について、家庭ごみの1人当たり排出量が 00 年度からの 10 年間で約 2 割減ったことなどを参考に推計し、削減量を設定する。 担当者は「削減目標を明確にすることで、一人一人が食品ロスを減らす意識を高めるきっかけにしてほしい」と話す。

食品ロスを巡っては、消費者らへの啓発や支援策などを定めた法案の議員立法を目指し、与野党で協議中。 余った食品を生活困窮者へ提供する活動に取り組む「全国フードバンク推進協議会」の米山広明事務局長は「これまで不十分だった家庭からの食品ロス対策に踏み込む第一歩になる」と期待する。 (五十嵐和大、mainichi = 6-9-18)


トヨタとセブン‐イレブン、次世代型コンビニ店舗で共同プロジェクト

トヨタが新開発する FC 小型トラックを 2019 年春に首都圏の物流に導入

トヨタ自動車とセブン‐イレブン・ジャパンは 6 月 6 日、セブン‐イレブンのコンビニ店舗と物流にトヨタの FC (燃料電池)小型トラックや FC 発電機を導入する共同プロジェクトを、2019 年から順次展開すると発表。 今後、2019 年春に FC 小型トラックを首都圏の物流に導入する。

同プロジェクトで導入される FC 小型トラックはトヨタが新開発しているもの。 「MIRAI」の FC ユニットを搭載した中温冷凍車の 3t 車で、走行距離は約 200km。 今回のプロジェクトによるセブン‐イレブンの配送パターンに応じた実用走行距離を設定した。 FC ユニットで発電した電気は、動力のほかに冷蔵ユニットの電源に使用。 停車中も、FC ユニットで発電した電気を冷蔵・冷凍ユニットに給電する。

また、2019 年秋から店舗において、定置式の「FC 発電機」とハイブリッド車の使用済みバッテリーを再利用する「リユース蓄電池」を導入するとともに、それらを店舗エネルギーマネジメントシステム「BEMS」で統合的に管理。 店舗で使用する再生可能エネルギーや水素由来の電力の比率を高め、CO2 排出削減を進めるとしている。 セブン & アイグループでは、2030 年までに店舗での再生可能エネルギーの利用比率を 20% まで引き上げ、CO2 排出量を 2013 年度対比で約 27% 削減する計画。

セブン‐イレブンにおいても、セブン & アイグループが掲げる目標に向け、再生可能エネルギーの利用を中心にサプライチェーン全体で CO2 排出削減に取り組みを進めている。 これまでにこの取り組みのフラグシップとして、2017 年 12 月 7 日に "ひとと環境にやさしい店舗" となるセブン‐イレブン 千代田二番町店を開店。 2018 年 5 月 22 日には 2 店目となるセブン‐イレブン 相模原橋本台 1 丁目店を開店し、店舗で使用する電力の再生可能エネルギー比率を 46% まで高めた。

今回、トヨタの技術やシステムを店舗や物流拠点へ導入し、さらに再生可能エネルギーの比率を高めた次世代型店舗への取り組みを進めていくとしている。 一方、トヨタは今回の共同プロジェクトを通じて、セブン‐イレブンの店舗・物流における CO2 排出削減や省エネルギーに貢献するとともに、FC 小型トラックや FC 発電機など新たな技術や知見の蓄積・実証を進めていく考え。 (椿山和雄、CarWatch = 6-6-18)

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セブンが省エネ店 駐車場に太陽光パネル、看板に風力も

コンビニ最大手のセブン-イレブン・ジャパンは、店で使う電気の半分弱を太陽光発電などの再生可能エネルギーでまかなう省エネの実証店舗を開いた。 スライド式の陳列棚なども備え作業の軽減も図る。 24 時間営業を維持しつつ店舗を増やすには、環境に配慮した省エネ化や省力化への対策が課題となっている。 22 日にオープンしたフランチャイズ (FC) の「相模原橋本台 1 丁目店(神奈川県相模原市)」は、駐車場に路面型の太陽光パネルを約 200 平方メートル敷き詰めた。 サインポール(看板)には風力・太陽光発電設備を備え付けた。

発電した電力の 95% は、トヨタ自動車のプリウス 20 台分の中古蓄電池などにためて夜間に利用。 店舗の使用電力の 46% をまかなうという。 セブンは約 2 万店のうち、すでに約 8 千店に太陽光パネルを設置。 昨年 12 月には東京・四谷に、水素燃料電池などを備えて使用電力の約 1 割をまかなう店も開いた。 今回は国内外の 90 種類の新技術を採用した実証店舗と位置づける。 設置費用を公開していないが、各技術を検証し、全国への拡大も検討する。

省エネ店舗の導入の背景には「温室効果ガスの排出量を、2030 年度までに 13 年度に比べて 26% 削減する」という政府の目標があり、「今後も出店を続けるには、1 店舗あたりの省エネが欠かせない」と大橋尚司執行役員は言う。 新店舗では店内設備を改良して省力化も進める。 麺類や総菜などが並ぶチルドケースは従業員が裏を通り抜けられる「ウォークイン冷蔵庫」に。 通路側からしていた商品補充を裏側からできるようにした。 揚げ物で使うフライヤーの換気扇を改良し、毎日 15 分かけた洗浄作業が週 1 度でもきれいに保てるようになった。 加熱時間などを自動認識する電子レンジも導入。 これらの作業にかかる時間を半減できたという。

ローソンも約 2 千店に太陽光パネルを設置しており、今年 1 月には太陽光発電で使用電力の 15% をまかなう店舗を群馬県館林市内に開業した。 ファミリーマートも約 2 千店に太陽光パネルを導入しているほか、今年は電気使用量 25% 削減を目指す実験店を関東に 5 店出す。 (高橋末菜、asahi = 5-31-18)


有名ビーチ、観光客激増で環境破壊危機 水質汚染やごみ問題で一時閉鎖も

日本人にも人気の東南アジアの有名ビーチが水質汚染やごみ問題といった環境破壊の危機に瀕している。 中国人をはじめとする観光客の激増などが原因だ。 一時封鎖に踏み切ったビーチもあるが、地元の観光業には大打撃となる。 観光振興と環境保全のはざまで、アジア各国が揺れている。

サンゴ損傷

「あのモーターボートの数を見てくれ。」 タイ南部プーケット島沖の小島にあるマヤ湾で、タイ環境保護当局の男性職員が指をさした。 透明な海水に白砂のビーチ、背後には岩山がそびえ立つ。 米俳優、レオナルド・ディカプリオさん主演の映画のロケ地になったことで人気に火が付き、1 日に約 4,000 人が訪れる。 ボートがビーチを頻繁に出入りし、湾近くで待機する数十隻のボートのいかりがサンゴ礁を傷つけている。

ビーチは過密で「寝転ぶ場所もない。(中国人男性)」 缶やたばこの吸い殻を環境保護当局者が拾い歩く。 湾は今年 6 月から 4 カ月間閉鎖され、サンゴの回復を待つ。 フィリピン有数のリゾート地、中部ボラカイ島は、4 月後半から最長で半年間、観光客の立ち入りを禁じている。 増加する観光客に伴って違法に建築した急ごしらえの宿泊施設なども増え、一部のホテルや飲食店などの汚水が海に流れ出し、水質汚染が深刻化したためだ。 2 月に訪れたドゥテルテ大統領は「汚水だめのようだ」となじった。

地元の観光業の男性によると、ボラカイ島は以前「秘境のビーチ」と言われていたが、ガイド本で取り上げられるようになり観光客が急増した。 昨年訪れた人は約 200 万人と、ここ 10 年で約 3 倍になった。 汚水の影響でビーチの一部には藻が大量発生。 サンゴ礁が減少しているともいわれ、政府は閉鎖中、清掃や排水処理施設の整備を進める。 タイやフィリピン当局は一時閉鎖解除後、入島人数を制限するとも指摘される。 「観光資源である美しいビーチを存続するには仕方ない(タイ人観光ガイド)」との意見も出るが、タイのボート会社社員は「財布への打撃は深刻」と顔色がさえない。

揺らぐ「地上の楽園」

世界的観光地のインドネシア・バリ島では、ごみ問題が深刻だ。 ジャワ島やスマトラ島、他国からビーチに大量の倒木や海草、プラスチックごみが流れ着き「地上の楽園」のイメージが揺らぐ。 地元環境清掃局によると、モンスーンによる風の影響で、4 - 10 月は東海岸、11 - 3 月は西海岸沿いのビーチにごみが散乱する。 担当者は「決してバリ島から出たごみではない」と "被害者" であることを強調、清掃員やトラックをビーチに毎日派遣し、清掃作業を続けていると説明した。(プーケット、ボラカイ、デンパサール、kyodo = 6-5-18)


コープこうべ 電力小売り事業好調 環境志向高まりで

生活協同組合コープこうべ(神戸市東灘区、組合員約 168 万人)の電力小売り事業が好調だ。 天然ガス火力や太陽光、バイオマスといった環境負荷が比較的少ない電源にこだわり、契約数は昨年 4 月の事業開始時の約 1 万 3,500 世帯から、約 2 倍の約 2 万 6,000 世帯(4 月末現在)に増加した。 背景には、割安感だけでなく、需要側と供給側の環境志向の高まりがあるようだ。

コープこうべは関西電力の送配電網を利用して兵庫県や京都、大阪両府内の一部に電気を送っている。 電源は石油や石炭に比べ二酸化炭素の排出が少ない天然ガス火力が 7 割、再生可能エネルギーが 3 割。再生可能エネルギーの調達先は 19 カ所(太陽光 16、バイオマス 3)だったが、今春、25 カ所(太陽光 21、バイオマス 4)に増やした。

コープこうべによると、月間使用量 300 キロワット時の一般的な家庭の場合、年間の電気料金は 8 万 2,180 円で、関西電力より約 5% 割安になるという。 店舗や訪問販売などの既存ネットワークを活用することで宣伝費用を抑えられたこともあり、昨年度の電力事業の売上高は 19 億 9,000 万円で黒字だった。 今年度は 3 割増の 26 億円を目標に掲げる。

しかし、好調の要因はコスト面だけではないようだ。 2016 年 4 月の電気の小売り全面自由化以降、組合員から「できるだけクリーンなエネルギーを使いたい」という声が寄せられているという。 企画政策部の益尾大祐・環境推進統括 (44) は「東京電力福島第 1 原発事故以降、消費者が電気の生産元にも目を向けるようになった。 地元で作る電気の比率を増やし、食品のように『地産地消』を進めたい。」と話している。

発電業者にも、環境面を重視した価値観が台頭している。 太陽光発電を手がける「宝塚すみれ発電(宝塚市)」は現在、宝塚市内を中心に 6 カ所で計約 300 キロワット分の太陽光パネルで発電し、一部をコープこうべに納入している。 以前から無農薬野菜の共同購入をしてきた井上保子社長 (59) は福島第 1 原発事故に背中を押される形で 13 年、同社を設立した。 「市民がエネルギー問題を身近に考えてもらえる世の中になってほしい」と話し、今後はバイオマス発電にも手を広げたい、としている。 (目野創、mainichii = 6-4-18)


豪で世界最大級の蓄電事業 東電・中部電参画

容量が世界最大級の蓄電池を使い太陽光を有効利用する発電事業がオーストラリアで動き出す。 独シーメンス系などの計画に東京電力ホールディングスと中部電力の共同出資会社、JERA (東京・中央)も参画。 1,200 億円を投じ家庭 10 万世帯分の電力をまかなえる容量 55 万キロワット分の太陽光発電所を造る。 ノウハウは再生可能エネルギーの導入拡大を目指す日本でも活用する方針だ。 (nikkei = 5-29-18)


日本製紙、3 工場で洋紙生産停止 7 期ぶり赤字転落へ

製紙業界 2 位の日本製紙は 28 日、北海道など 3 工場の洋紙生産設備を 2020 年 1 月までに停止すると発表した。 19 年 3 月期決算に固定資産の減損損失などとして特別損失約 200 億円を計上。 純損益は 180 億円の赤字となる。 赤字転落は 7 期ぶり。

停止するのは、北海道工場勇払事業所(北海道苫小牧市)、富士工場(静岡県富士市)のすべての洋紙生産設備と、釧路工場(北海道釧路市)の一部の設備。 今後、バイオマス発電や家庭紙生産などへの転換を検討する。 停止設備に関わる従業員約 350 人の雇用は継続する。 国内の洋紙需要は減少が続き、同社は生産設備の縮小を進めている。 今回発表した計画と今月停止した秋田など 2 工場とあわせ、年間の洋紙生産量の 18% 分にあたる 76 万トンを削減することになる。 (asahi = 5-28-18)


あのモンゴルで "世界最悪の大気汚染" 衝撃映像が突きつける現実

"環境問題" と聞くと、都市化の進んだ地域での話と反射的に捉える人が多いのではないか。 だが、きょう 26 日 (15:30 - 16:30) にフジテレビで放送されるドキュメンタリー番組『環境クライシス〜凍てつく大地の環境難民〜』で伝えられるのは、大自然に囲まれた国・モンゴルでの信じがたい現実だ。 番組のオープニングは、モンゴルの広大な山岳地帯・草原地帯の美しい空撮から幕を開ける。 日本ではお目にかかれないスケール感に目を奪われ、環境問題とはほど遠い印象を受けるが、直後に映し出されるスモッグに覆われた光景で、これから恐ろしい現実を突きつけられることが想像される。

「人は馬の上で育つ」という言葉が伝わり、多くの遊牧民が暮らすモンゴルは今、信じられないことに "世界最悪の大気汚染" と言われているという。 首都・ウランバートルの大気汚染の程度は、大都市・北京の 2 倍、世界基準に比較すると 25 倍にもなり、生活の上での具体的な支障が紹介される。 その要因にあるのは、「ゾド」と呼ばれる現象。 いかにもおどろおどろしい語感を持つワードだが、これは、地球温暖化による気候変動により、乾燥した夏の干ばつの後に大雪で厳しい寒さが続くという状況を指す。

そうなると被害が直撃するのが、たくさんの家畜とともに暮らす遊牧民たちだ。 大雪に埋まってしまった動物の救出シーンにとどまらず、ゾドの被害の大きかった場所を訪ねると、あちらこちらに家畜の死がいが横たわるという衝撃的な光景が飛び込んでくる。 遊牧民として立ち行かなくなった彼らは、仕方なく町に出てくることになるのだが、その結果、意外な理由で大気汚染を引き起こすことになる。

番組は全編を通して、とにかく映像が美しい。 トナカイを家畜として昔ながらの生活をしているツァータン族という民族を取材しているのだが、400 頭にもおよぶトナカイの群れは圧巻。 5 歳の幼い少女が、自分より体の大きい 4 頭のトナカイを引き連れる場面は、CG かと思うくらいの非現実感だ。 そんな映像が流れるだけに、突如登場する家畜の死がいや、町のスモッグといったシーンは、より一層衝撃的。 しかし、気候変動を引き起こすと言われる地球温暖化の原因は、日本を含む先進国の責任が大きいのだから、異国の事象に驚いている場合ではないだろう。 それに、日本でも近年、毎年のように豪雨災害が相次いでいる。

そこで番組は、環境汚染に対する日本における取り組みも取材。 洋上風力発電、ANA の最新航空機、森ビルの緑化を取り入れた再開発といった事例が紹介されているが、これは、われわれ個人も意識を持っていかなければならない問題のはずだ。 モンゴルを代表する環境学の権威・バトジャルガル博士は、将来的に日本も含めた各国で、海面上昇による "大惨事" が起こることを忠告しているが、その言葉は、視聴者 1 人ひとりに突き刺さるに違いない。 (MyNavi = 5-26-18)


ノーベル賞受賞の天野教授 青色 LED で省エネ半導体

EV 搭載に期待

ノーベル賞受賞者である名古屋大学の天野浩教授は同賞の研究成果でもある青色発光ダイオード (LED) の素材で省エネルギー効果に優れた半導体の開発に成功した。 エアコンなどの家電に使えるメドを付けた。 トヨタ自動車やデンソーなどの民間企業と協力し、2 年後をメドに製造コストを下げたうえで、実用化を目指す。 物質・材料研究機構や名城大学との共同研究で、16 日に研究成果を発表する。

天野教授は 2014 年、名城大の赤崎勇博士と米カリフォルニア大学の中村修二博士とともにノーベル物理学賞を受賞。 窒化ガリウムを使った青色 LED の研究成果が評価された。 今回はこの窒化ガリウムを材料に、電力を制御する「パワー半導体」として開発した。 約 1 ミリメートル角という小さな半導体を試作した。 家電に使う場合に求められる 10 アンペアの電流を安定的に送れることを確認した。 大量のデータを蓄積するサーバーやエアコンなどの機器に使えば、電力消費量を従来に比べて 10% 近く抑えられる。

そもそも窒化ガリウムは半導体に加工すると結晶内に欠陥が生まれて熱が発生して劣化する問題があった。 天野教授らは欠陥ができても劣化しにくいよう工夫して耐久性を高めた。 耐久性の課題解決にメドを付けて商用レベルを達成した。 民間企業と協力し、2 年後をメドにコストを従来の 100 分の 1 に下げて事業化につなげる。 製造コストを 100 分の 1 に下げると、シリコンや炭化ケイ素を使った現状のパワー半導体に置き換わることができる水準になるという。 電力を制御するパワー半導体は家電だけでなく、開発競争が激しい電気自動車 (EV) でも実用化が期待されている。 天野教授は今後開発をさらに進めて EV 向けにも実用化を目指す。

文部科学省の事業で天野教授を中心にトヨタなど約 40 社が結集し、研究開発を進めた。 企業や大学があらゆる実験データを持ち寄り、実用化で課題となる問題をつぶしてきた。 今回、家電に搭載したときの障壁となっていた大電流への対応にメドがつき、技術的な課題を全てクリアした。 調査会社の富士経済によると、パワー半導体の世界市場は 2017 年で約 2 兆 7,000 億円。 30 年に約 4 兆 7,000 億円まで拡大する見通し。 現状ではシリコンのパワー半導体が最も多いが、コスト減が進めば、大幅な省エネにつながるなど性能で上回る窒化ガリウムが一気に取って代わる可能性がある。 (nikkei = 5-13-18)