岩手・秋田で相次ぐクマ被害、隣の青森はなぜ少ない 思わぬ緩衝帯?

各地で深刻化するクマ被害。 特に岩手、秋田では人身被害も相次ぎ、自衛隊や警察の協力を仰ぐ事態にまで発展している。 しかし、両県と隣接する青森はいまのところは被害が大幅に少ない。 同じ北東北地域なのに、どうしてなのか。 まず、青森はもともとクマの生息数が少ないと言われてきて、県の資料では「津軽山地ではクマは絶滅した」と記載されたこともある。 だが県自然保護課によると「ここ 10 年くらいで数が増えてきた」といい、近年はクマの目撃が増加。 環境省によると、10 月 31 日時点のクマの出没件数の速報値は、@ 岩手、A 秋田、B 青森、C 山形、D 新潟、と続く。

各地のクマ出没と人的被害の状況

一方で、10 月 6 日に発表された人身被害の被害者数(速報値)は、@ 岩手、A 秋田、B 長野、C 福島、新潟、となっている。 青森は被害者 5 人で死者はゼロ、出没件数に対して被害件数は少ない。 特に象徴的なのは、岩手や秋田では県庁所在地の中心街でもクマ出没が相次いでいるのに対し、青森では中心街での出没はほとんどないことだ。 青森県自然保護課の担当者は「一概には明確な理由を言えない」とした上で、いくつかの可能性に言及した。

道路? 川? リンゴ? 防波堤は

まず青森市の市街地で出没が少ない理由として「青森環状道路(国道 7 号青森環状バイパス)」を挙げる。 市街地を取り囲むように走っているため、図らずも山とまちを隔てる役割を果たしているという。

青森市中心部と青森環状道路

クマは本来、茂みなどで身を隠しながら行動するため人目につく場所に出ることを好まない。 さらに車の交通量が多いため、クマにとっては道路から市街地にまっすぐ向かうことはかなり困難だという。 また、他県ではクマが川伝いに市街地に現れるケースがみられる。 盛岡市では 10 月にクマが市中心部を流れる中津川の河川敷で目撃されたほか、仙台市でも市中心部を流れる広瀬川の河川敷でクマの目撃が相次ぐ。

しかし、青森ではそうしたケースをあまり耳にしないという。 担当者は「護岸がコンクリートで固められていたり草が刈られていたりするなど、川沿いにクマが身を隠せるような環境が少ないことも影響している可能性がある」と分析する。 また、人とクマの生活圏を分ける「ゾーニング」の効果も指摘する。 リンゴでは全国の生産量の約 6 割を占めるなど、農業が盛んな青森。 クマが生息する山と人里との間にある果樹園や田畑に比較的人の手が入っていることで「緩衝地帯」ができ、「クマが身を隠しにくい環境ができているのではないか」と推察する。

今年は、山のブナやドングリなどが不作のため、クマが冬眠前にエサを求めて人里に下りてきているといわれる。 嗅覚の鋭いクマは人家の柿の木などを狙い、生ゴミなどもエサにする。 そしてリンゴも食べる。

果樹の食害、弘前などで多発

県によると、県内では今年、クマによる農作物の食害が 10 月 31 日時点で 168 件確認されている。 このうち、リンゴの生産が盛んな弘前市を含む中南地域が 4 割を占める。 クマは山に近い果樹園のリンゴなどを食べることで、人里までは下りてきていない可能性もあるという。 その上で、担当者は「食害を防ぐには、電気柵などで果樹園に侵入させない対策をとる必要がある」と注意を促す。

被害が少ないのは偶発的な理由だけではない。 青森では昨年、八甲田山系の酸ケ湯温泉近くで、タケノコ採りに来ていた女性がクマに襲われて亡くなる被害があった。 そのため、県は今春からクマへの注意喚起を行ってきた取り組みも奏功したとみる。 間もなくクマの冬眠時期に入るが、県は、十分なエサを食べられずに冬眠できないクマが出てくる可能性もあるとし、「11 月いっぱいごろまではクマに十分注意をしてほしい」と呼びかけている。 (野田佑介、asahi = 11-16-25)


クマと列車の衝突、今年度はすでに 71 件 過去最多か JR 東日本

JR 東日本管内で列車とクマが衝突する輸送障害が、今年度は 10 月末までに 71 件に達していることがわかった。 2023 年度の 51 件、24 年度の 11 件を大幅に上回り、過去最大規模とみられるという。

同時に別々のクマと衝突、新幹線の車庫にも

山形県内の JR 新庄駅では 8 日午後 2 時過ぎ、新幹線や在来線の車庫内に体長約 50 センチの子グマが入り込んだ。 数時間後に箱わなで捕獲されたが、山形新幹線東京行き「つばさ 150 号」が新庄 - 山形駅間で区間運休した。 10 月 24 日午後 8 時 40 分ごろには、秋田県大館市内の JR 花輪線で、下り列車と上り列車がそれぞれ別のクマと相次いで衝突。 安全確認のため、一部区間が運休となり、乗客はタクシーなどで代行輸送された。

JR 東によると、クマ対策として保線作業員らは鈴や撃退スプレーなどを持参しているほか、巡回には、レール上を走るエンジン付きの軌道自転車を利用している。 クマにより社員らがけがをしたケースはないというが、同社の喜勢陽一社長は「抜本的対策になっているかどうか非常に悩ましい」と話す。 また、シカなどと異なり、クマと衝突した場合は危険を避けるため、運転士らは線路に降りて移動させるなどの対応はせず、地元の猟友会に依頼することになっている。 このため、運転再開に時間がかかる傾向があるという。 (細沢礼輝、asahi = 11-12-25)


福井・勝山の工場内にクマ、緊急銃猟で駆除 体長 1.2 メートルの雄

福井県勝山市は 8 日、市内の工場内でクマの成獣 1 頭を「緊急銃猟」によって駆除したと発表した。 人的被害はなかった。 市によると、7 日午後 10 時ごろ、同市滝波町 3 丁目のセーレン勝山工場付近で、同工場の従業員がクマを目撃した。 通報を受け、市職員と警察官らが周辺を捜したところ、8 日朝、同工場の建物内にいるのを確認した。

クマはその場にとどまっており、市は「緊急銃猟」の実施を決定。 従業員の退避や付近への立ち入り制限など、安全確保を講じたうえで、午前 10 時 15 分ごろ、発砲により駆除した。 クマは体長 1.2 メートルの雄だった。 同市での緊急銃猟の実施は、10 月 29 日に旭町 1 丁目の「まつぶんこども園」近くでの成獣と子グマの 2 頭を駆除したことに続いて 2 例目となる。 (石川幸夫、asahi = 11-8-25)


温泉旅館でクマが居座り、経営者らが一時取り残される 山形県米沢市

7 日午前 7 時半ごろ、山形県米沢市の温泉旅館から、「1 階の部屋にクマがいる」と 110 番通報があった。 県警米沢署によると、経営者ら 3 人が一時、建物内に取り残されたが、非常階段から外へ逃げて無事だった。 クマはその後も建物内にとどまっていたが、午前 11 時 49 分に市の判断で銃が使える「緊急銃猟」で 1 階の廊下にいるところを駆除された。 県内で緊急銃猟による発砲は初めて。 現場は米沢市南部にある「滑川温泉 福島屋」。 米沢署によると、冬の休業のため経営者の家族 3 人で片付けをしていたところ、1 階の部屋にクマがいるのを目撃したという。 市によると、体長は 1.2 メートルだった。

3 人は 2 階の部屋に一時取り残されたが、午前 9 時 10 分過ぎに非常階段から建物の外へ逃げ、けがはなかった。 付近は山に囲まれており、市によると数日前から数件、クマの目撃情報があった。 そのため市がわなを設置し、警戒していたという。

周囲の安全を確保し発砲 山形初の緊急銃猟

市町村長の判断で発砲できる緊急銃猟が指示されたのは、山形県内では 3 件目だが、実際に緊急銃猟による発砲は今回が初めてのケースとなった。 1 件目は鶴岡市。 9 月 20 日、JR 鶴岡駅から約 300 メートルの市街地でクマが目撃され、市は全国で初となる緊急銃猟を決めた。 だが、眠っていたクマが動き出したため、急きょ、現場の警察官がハンターに発砲を命じた。 この場合は緊急銃猟ではなく、警察官職務執行法に基づく命令による発砲となった。

2 件目は米沢市。 10 月 6 日、上杉神社近くの住宅街でクマが目撃されたため緊急銃猟が指示されたが、クマがわなに入り、発砲は見送られた。 今回の発砲について、米沢市環境課は「現場は周囲の安全が確保されていたため、環境省のガイドラインに沿って対応した」と話す。 環境省は各市町村に、緊急銃猟に対応するマニュアルを作成するよう勧めている。 だが、米沢市では「クマの目撃への対応に追われ、マニュアルづくりが間に合っていない」と悩みを抱えている。 (渡部耕平、asahi = 11-7-25)


クマ出没は上半期で 2 万件、過去 5 年間で最多 「過去最悪」の被害

相次ぐクマによる被害を受け、国の関係省庁は 6 日、対策連絡会議を開いた。 最新の被害状況が共有され、年度上半期(4 - 9月)の出没件数は 2 万 0,792 件(速報値)で、過去 5 年間で最多となるなど、深刻な状況が改めて浮き彫りになった。 死者は 13 人で、すでに過去最悪となっている。 出没件数は、上半期だけですでに 2024 年度の 1 年分(2 万 0,513 件)を超えた。 「異常出没」とされた 23 年度のペースも上回っており、環境省によると、過去 5 年間で最多だという。

出没が最も多い県は、岩手の 4,499 件で、秋田(4,005 件)、青森(1,835 件)、山形(1,291 件)が続いた。 北海道は出没件数を公表していない。 近畿や中国では、例年と同様の傾向だった。 23、24 年度と比べて、7 月以降に起きた人身事故のうち、人の生活圏で起きた割合が高い傾向が明らかになった。 7 割以上が市街地や人家の周辺などで発生していたという。

また、5 日時点のクマによる死者は、ヒグマによるものが 2 人、ツキノワグマによる死亡は 11 人となっている。 10 月上旬には、それまで過去最悪だった 23 年度の 6 人を上回り、その後も増え続けている。 ツキノワグマによる死亡のうち、長野県の 1 人をのぞく 10 人の事故は、東北地方で発生していた。 会議には環境省のほか、警察庁や防衛省などが参加。 今月中旬までに改訂する対策施策パッケージについて話し合った。 (杉浦奈実、asahi = 11-6-25)


秋田県湯沢市の山林で女性遺体発見、クマに襲われた可能性 顔に損傷

3 日午前 9 時ごろ、秋田県湯沢市川連町の山林で、近くに住む無職後藤キヨさん (79) の遺体が見つかった。 頭部の損傷が激しく、クマとみられるかみ痕が複数あり、湯沢署はクマに襲われた可能性が高いとみている。 同署によると、後藤さんは 2 日朝、「山に行ってくる」と家族に電話した後、行方が分からなくなっていた。 近くの山にキノコ狩りに出かけていたことから、遭難した可能性が高いとして、3 日朝から警察や消防、市職員が捜索していた。 (隈部康弘、asahi = 11-3-25)


福島でもクマの被害相次ぐ 牛舎の近くやジョギング中に計 2 人がけが

クマによる人身被害が相次いでいる。 10 月 31 日午後 5 時 20 分ごろ、福島県大玉村玉井にある農場の牛舎近くで、従業員の本宮市の 50 代男性がクマに襲われて負傷した。 郡山北署本宮分庁舎によると、同僚が叫び声を聞いて駆けつけたところ、倒れている男性を発見。 男性は後頭部、左腕、左ももをひっかかれた。 搬送時、会話ができる状態で、命に別条はないという。 その後、別の従業員が牛舎の近くを歩くクマ 2 頭(体長約 1.2 メートル、1.8 メートル)を目撃。 男性を襲ったクマかは不明だが、ハンターが 1 頭を駆除した。 もう 1 頭の行方は分かっていない。

11 月 1 日午後 2 時 10 分ごろ、会津美里町赤留の県道近くで、ジョギングをしていた近くの 60 代男性がクマ2頭(体長約 1 メートル、1.5 メートル)と遭遇した。 男性はそのうち 1 頭に襲われ、左腕と左脇腹を負傷した。 会津若松署によると、男性は近くの民家まで自力で避難し、住民が 110 番。 病院に運ばれたが、命に別条はないという。 (手代木慶、asahi = 11-1-25)


駆除されたクマ、旅館従業員を襲った個体と断定 岩手県北上市

岩手県北上市で、温泉旅館の男性従業員がツキノワグマに襲われて死亡した事故で、同市は遺体発見現場近くで駆除されたクマが、男性を襲ったとみられるクマと同一個体と断定、27 日に発表した。 事故は 16 日に発生。 同市和賀町の温泉旅館で露天風呂を掃除していた男性従業員が行方不明になり、現場にはクマの毛が残されていた。 県警や猟友会などは 17 日、露天風呂から北西に約 50 メートル離れた雑木林で男性従業員の遺体を発見。 遺体のそばにいたクマ 1 頭を駆除した。

県環境保健研究センターが分析した結果、16 日に温泉旅館の現場付近から採取したクマの体毛と、17 日に駆除したクマから採取した体毛の DNA 型は一致した。 この旅館から西に約 2 キロ離れた入畑ダム周辺の山林では 8 日にも、クマに襲われたとみられる別の男性の遺体が発見されていた。 だが遺体を発見した現場から採取したクマの体毛は、DNA 分析に十分な量と質を確保できず、17 日に駆除されたクマと比較できなかったという。 (伊藤恵里奈、asahi = 10-28-25)


クマに襲われ 4 人がけが 近くでクマ 1 頭を駆除 秋田

24 日午前 11 時すぎ、秋田県の湯沢雄勝消防本部に、同県東成瀬村田子内で人がクマに襲われていると 119 番通報があった。 横手署などによると、4 人が頭や顔にけがをしているという。 4 人は男性 3 人、女性 1 人とみられる。 同村産業振興課によると、午後 1 時過ぎ、近くで地元のハンターがクマ 1 を駆除した。 緊急銃猟ではなく、有害鳥獣捕獲の手続きを踏んだという。 (asahi = 10-24-25)


岩手県北上市の瀬美温泉近くで遺体見つかる クマに襲われた従業員か

岩手県北上市の瀬美温泉で露天風呂の清掃中に行方不明になった男性従業員 (60) とみられる遺体が 17 日午前 9 時ごろ、同温泉近くの雑木林で見つかった。 近くでツキノワグマ 1 頭が射殺された。 遺体は損傷が激しいという。 県警や市、猟友会などが同日朝から捜索していた。

クマ被害者はプロレス元レフェリー 最近まで現役、がっちりした体格

男性は 16 日午前 10 時ごろから、露天風呂を 1 人で清掃していた。 姿が見えないことに支配人が気づき、同 11 時 15 分ごろ警察に通報。 露天風呂で血痕が確認され、男性のものとみられる眼鏡やスリッパが散乱していた。 獣の体毛も残され、県警はクマに襲われた可能性が大きいとみている。 遺体が見つかったのは、瀬美温泉から北西に約 50 メートル。同温泉の北西、夏油川対岸の雑木林内という。 射殺されたクマは成獣だった。

露天風呂は夏油川沿いの崖の上にある。 16 日は午後 3 時から捜索したが、悪天候もあり 30 分余りで打ち切った。 17 日朝から約 40 人態勢で捜索を再開していた。 北上市では今月 8 日にも、瀬美温泉から西に約 2 キロの山林で、キノコ採りに出かけた男性が死亡。 クマに襲われ死亡したとみられる。 このクマは捕獲されておらず、県警や市は同一個体かどうか調査を進める。 (asahi 10-17-25)


北海道のドングリ、広範囲で凶作 ヒグマ目撃は続出「常識通じない」

ヒグマが食べる秋の山の木の実が少ないことが、北海道の調査でわかった。 道内各地で市街地でのヒグマの出没が相次いでおり、道は 10 月末までとしていたヒグマ注意特別期間を 11 月末まで延長するなど緊張が高まっている。 道野生動物対策課ヒグマ対策室の担当者は「山の実なりが悪く、ヒグマは冬眠までの間、食物を探して活動範囲を広げ、これまで出没しなかった地域でも遭遇する可能性がある。 人の生活圏での出没頻度も増えると考えられる。」と話し、警戒を強めている。

道は 2005 年から「秋の山の実なり調査」を実施している。 ミズナラとブナのドングリ 2 種、ヤマブドウ、コクワ(サルナシ)の計 4 種の実なりを定点観測と目視で調べ、豊作、並作、不作、凶作の順に評価している。 今年は 4 種とも豊作の地点はなかった。 ミズナラは石狩、空知、十勝、オホーツク、後志など広範囲にわたる 9 管内が凶作。 道南に実るブナは後志で凶作、檜山と渡島は不作だった。 一方、ヤマブドウは広範囲で並作か不作、コクワも同様で、石狩では凶作だった。

山の実なりの豊凶は動物たちにも影響し、ドングリが不作だった年はヒグマの目撃件数が増える傾向があるという。 道は、生ゴミを放置しないことや、暗い時間の外出を控えるよう呼びかけている。

自宅裏に何度も

道警によると、9 月末時点でヒグマの目撃やふん、足跡などに関する通報は 3,686 件あった。 20 年以降、最も多かった 23 年(年間 4,055 件)の同時期と比較しても 531 件多いハイペースだ。 196 万人が暮らす札幌市でも「災害級の状況」が続いている。 市によると、直近 10 年で月間の出没件数としては最多だった 9 月(71 件)に続き、10 月もすでに 43 件(10 日午前時点)。 9 月末から計 5 頭を駆除したにもかかわらず、落ち着く気配がない。 関係者は「今までの常識が通じない状況」とこぼす。

市の担当者によると、シーズン最多だった 23 年(9 月は 24 件)は「同一の個体が何度も目撃されたことで件数が増えた側面がある。」 ただ、今季は「異なる個体が、札幌一円で、同時多発的に出没している状態」として、対応に苦慮しているという。 9 日夜には、西区山の手地区の閑静な住宅街でヒグマが相次いで目撃された。 当時、自宅にいた住民の女性 (62) は、町内会からの連絡で近所での出没を知り、「いないよね …?」と窓の外を眺めた。 自宅裏の林にはクリの木があり、気になったからだ。 すると、「黒い影」が見えた。 「動きから、クリの実を食べているんだと思った。」 状況を記録し、すぐに関係機関に連絡した。

その後の調べで、付近には古いフンもあり、ヒグマが自宅裏にきたのは初めてではないらしいことがわかり、さらに驚いた。 女性は「これまでも野生動物との距離は意識し、当事者意識をもって生活してきた。 だが、改めて『本当に近くにいるんだ』、『本当に気をつけなくちゃ』と痛感した。 よりいっそう、意識を徹底させていかないといけない。」と語った。

死亡事故あった福島町 現場付近で再び出没

駆除の最前線に立つハンターは、夏前から山の異変を感じていた。 7 月、市街地で新聞配達員がヒグマに襲われ亡くなる事故が起きた福島町。 そのクマは 6 日後に駆除され、すぐに町内の施設で解体された。 町職員は「クマの胃の中は、昨秋に落ちたドングリがほとんどだった」と明かした。 ベテランハンターによると、昨秋はドングリが豊作だった。 「今年は事故前から、ヤマグワの実など山の食物が少なかったので、昨秋のドングリを食べていたのだろう」と指摘。 「食物を求めて山を歩き回り、生ごみの臭いに誘われ街に下りてきて、ここには食べ物があると学習し、居着いてしまったのではないか。」

町ではその後も人里へ近づくクマが相次ぎ、捕獲数は 9 月末で 23 頭と、記録の残る 16 年以降最多だった 23 年の 16 頭を上回った。 例年、秋は出没が減る傾向があるが、今年は 9 月の捕獲数が月別最多の 12 頭に及ぶ。 ハンターは「ドングリやサルナシの実がほとんどついていない。 いつクマが街に出てきてもおかしくない。」と話していた。 予感は的中。 事故現場近くで 9 日、屋外のごみ置き場や家庭菜園がヒグマに荒らされていた。 町は山林との境界に電気柵を増設。 夜間に車でのパトロールを実施し、捕獲に備えてハンター 4 人が交代で見回りをする。

ヒグマ対策を担う福原貴之・産業課長は「2 度と事故が起きないように万全を期す」と気を引き締める。 北海道立総合研究機構エネルギー・環境・地質研究所(札幌市)のシニアアドバイザー・釣賀一二三さんは「近年の人身被害は、『これまでヒグマが活動しない』とされていた場所で予期せず遭遇してしまい、あつれきに発展してしまった事例が目立つ。 特に山林に近い地域で暮らす住民は、誰もがあつれきの当事者になってもおかしくない状況で、今まで以上に緊張感を持つべき段階にきた。」と指摘する。 (大滝哲彰、長谷川潤、野田一郎、原知恵子、asahi = 10-11-25)


人を襲わなかった「知床のヒグマ」が凶暴化した
"3 つの原因" 「ついに起きてしまった」と語る予兆とは

8 月 14 日、北海道・知床半島にある羅臼岳の登山道を下山中だった男性がヒグマに襲われ、15 日に遺体が見つかった。 200 メートルほど後方を歩いていた友人が駆け寄って抵抗したものの、クマは男性を茂みに引きずり込んだという。 知床は世界有数のクマの高密度生息地域として知られ、クマと人との距離も近い。 一方で、これまで人が襲われる人身事故はまれだった。

死亡事故は 1985 年にクマ駆除にあたっていたハンターが逆襲されて亡くなって以来 40 年ぶりで、一般住民や観光客が犠牲になるのは北海道が記録を公表している 62 年以降初めてのこと。 87 年から 2016 年までの約 30 年は負傷事故すら 1 件も起きていない。 知床半島のヒグマを研究する北海道大学の下鶴倫人准教授は言う。

「今回の事故の直接的な原因はまだわかりませんが、非常にショックな事故です。 ただ、多数の観光客が訪れるエリアで人里にも近い知床半島の状況を考えると、これまで起きなかったことが、ある意味、幸運だったとも言える。 ついに起きてしまったか、という感覚です。」

知床半島に生息するヒグマは、20 年の調査では推定約 400 - 500 頭だった。 ただ、23 年に秋の主要食物資源が不作となった影響で多数のヒグマが人里に近づき、結果として180 頭超が駆除された。 推定生息数の 4 割から半数に迫る数字だ。 「23 年の大量捕殺をへて、いまは過去 20 - 30 年の間で最もクマが少ない状態です。 クマをめぐっては事故防止のための頭数管理が各地で計画に組み込まれていますが、個体数管理だけでは必ずしも事故を防げないことを示しています。(下鶴准教授)」

これまで、「奇跡的」と言われながらも知床で深刻な事故が起きてこなかった背景には複数の要因がある。 まず、地元の側の対策だ。人が利用するエリアに接近したヒグマに対しての威嚇のほか、危険行動を起こしたクマは人を襲う前にハンターらの手によって捕殺されてきた。 クマの生息域と隣接する集落では電気柵を設置したり、ゴミ出しのルールを厳しく定めてクマには開けられない特殊なゴミ置き場を整備したりするなどの対策も行われてきた。 観光客に対しては、地元自治体や国立公園管理団体である知床財団が中心になり、ヒグマと適切な距離をとる、エサをやらないなど、さまざまな普及・啓発活動に力を注いできた。

クマが人を襲うようになった「要因」

もう 1 点、クマの人に対する「許容度」が高いことも特徴として挙げられる。 下鶴准教授はこう指摘する。 「観光客がよく来るエリアで暮らしているクマは人を見慣れています。 個体差はありますが、他の地域のクマと比べると、人間と接近・遭遇してもパニックになったり、興奮して襲いかかったりしにくい個体が多いと言えると思います。」 一方で、その「人慣れ」が危険行動につながる下地にもなっていた可能性も否めない。

知床を含めた北海道各地ではかつて、春先にハンターが山に分け入って見つけたヒグマを撃つ「春グマ駆除」が行われてきたが、個体数減少や保護意識の高まりから 1990 年に廃止された。 春グマ駆除には個体数を減らすこと以外に、クマに対して人への警戒心を強く植え付ける効果があったという。

春グマ駆除が廃止され、クマの世代も入れ替わって人間への恐怖心を持たなくなったほか、2000 年前後から世界自然遺産登録に向けた機運が高まり(実際の登録は 05 年)、観光客も増加の一途をたどった。 それによりクマと人の接近・遭遇事例が増え、クマを見るために一時停止する車が連なる「クマ渋滞」も、シーズン中は連日のように発生している。 下鶴准教授は続ける。

「知床に観光に来た方がクマを見かけて車をいったん止めるのは自然なことだと思います。 ただ、クマにしてみると連日それが続き、少しずつ距離感がおかしくなってしまう可能性はあるでしょう。 また、中には必要以上に接近したり、クマにえさを与えたりするモラルのない観光客もいて、ずっと問題視されてきました。 22 年に改正自然公園法が施行されたことで、これらは明確に違法行為になりましたが、なくなっていません。」

ヒグマなどの野生動物が人間から与えられた食べ物や、人間が放置した食べ物を食べると、動物は同じ味を求めて再び同じ場所に現れたり、人間に付きまとったり、場合によっては人間を襲うなどの行動をとりやすい。

車内からスナック菓子を与えるケースも

環境省や道などでつくる「知床世界自然遺産地域科学委員会」のまとめによると、24 年シーズンには、知床国立公園を訪れた観光客が意図的にヒグマに近づいた「危険事例」が過去最多の 70 件に上った。 また、知床財団によると、今年 7 月 29 日には車内からヒグマにスナック菓子を与えているとの目撃通報があったという。

今回の事故の直接的な要因は明らかになっていないが、道の調査では道幅が狭く見通しの悪いカーブで母グマに遭遇したと見られ、子グマを守ろうとした「防御反応」との指摘もある。 また、加害個体は地元では比較的よく知られ、過去に危険行動などは確認されていない個体だと報道されている。 ただ、同一個体かはわからないが、羅臼岳では事故の数日前にもヒグマが登山者に付きまとう事例が報告されている。 数十年にわたるクマと人間の接近で、知床半島全体でのリスクが蓄積されている一面はあるだろう。 事故を繰り返さないために、できることはあるのか。

「例えば特定の時期やエリアにおいて自家用車の通行を制限し、バスによる乗り入れに限定するアクセスコントロールや、悪質な危険行為に対して実効力のある取り締まり体制を取ることは必要でしょう。  ただし、これらは目新しい対策ではなくて、すでに一部で試行されていたり、法律としてあったが実行力が伴わなかったものです。 今回の事故を機に、スピード感を持って取り組んでいく必要があると思います。(下鶴准教授)」

微妙なバランスの上にかろうじて成り立っていた知床半島でのクマと人の共存が、崩れ始めているのかもしれない。 (川口穣、AERA = 8-24-25)


北海道「ヒグマ警報」初発令 事前に注意報出ず、抽象的な表現課題も

福島町に道内初の「ヒグマ警報」を出した北海道の鈴木直道知事は 17 日の定例会見で、改めて住民に「十分な警戒」を呼びかけた。 捕獲による安全確保を急ぐとともに、警報をめぐる課題についても今後検証する考えを示した。

人を殺したヒグマ、住宅地で撃てるか 訓練重ねても「慎重に見極め」

ヒグマ警報は 2022 年、被害防止を目的に道がつくった制度。 市街地付近で人身被害が発生したときに出す「警報」のほか、ヒグマが頻繁に出没したときに出す「注意報」と、広く注意を促す「注意喚起」の 3 段階がある。 道は警報発令とともに、福島町に職員ら 5 人を派遣し、町や道警と連携して対策にあたる。 それまで周辺では、警報の「手前」の注意報は出ていなかった。 発令の基準を定めているものの「頻繁に出没」という抽象的な表現にとどまるなど運用面での課題がある。

鈴木知事は「町と(ヒグマの)出没情報などを共有しながら対応はしてきたが、大変残念な結果となってしまった」とし、「有効に機能するために不断の見直しをしなければいけない」との考えを示した。 町とも今後「検証、課題の整理を行う必要がある」と述べた。 道は 18 日、各市町村に警報などの発令基準を周知する。 鈴木知事は「市町村からも意見をいただき、専門家の話も聞きながら見直しを行いたい」と説明した。 (丸石伸一、asahi = 7-17-25)