安いファッションが抱える搾取の構造 日本も「他人事ではない」理由

アパレル産業のあり方が問われる出来事が 9 年前、バングラデシュで起きた。 先進国向けの衣料品を作る工場が集まったビル「ラナプラザ」が崩壊し、千人以上が亡くなった。 誰かの犠牲の上に成り立つ安いファッション。 事故後に渦巻いた疑問の声は、その構造を変えたのか。 この国の人々を見つめてきた神戸女学院大学文学部准教授・南出和余さんに聞いた。

- 縫製工場で働く女性たちの闘いを描いた映画「メイド・イン・バングラデシュ」が公開中です。 字幕は、南出さんが教える学生たちが手がけたそうですね。

「2 年余り前に神戸女学院大の学生から希望者を募り、2 人 1 組で 8 - 10 分間ずつ英語の字幕を翻訳しました。 現地へのスタディーツアーも実施し、女性たちが普段着ているサリーなども見てもらいました。 現地の工場で作っているのは自分たちのためでなく、私たち先進国向けの商品だと体感してもらうためです。」

「日本では衣料品はほぼ輸入に頼っており、バングラデシュは中国、ベトナムに次ぐ輸入先です。 でも生産地と消費地は遠く離れ、自分たちの服を、誰が、どんな風に作っているか、消費者が意識する機会はほとんどない。 生産者側も同じ。 現地の工場で働く若者と話しても、どこでどう消費されるかにはあまり関心がありません。 それを変えるきっかけになればという思いからでした。 工場で働く人たちとも対等な人間同士として交流したことで、学生たちのイメージはいい方向に変わったようです。」

- 身近に感じられるようになったんですね。 日本もかつては国内で生産していたのに、なぜ輸入に頼るようになったのでしょう。

「アパレルは完全な機械化が難しく、人の手が必要とされる産業なのです。 このため古くから、その時々の『安い労働力』に頼ることで成り立ってきた面がありました。 例えば、明治時代に日本の繊維産業を支えたのは、地方から出てきた女性たちでした。 現代ではグローバル経済の発展で、縫製工場がより人件費の安い国へと移動していきました。」

「バングラデシュでは、1990 年代に縫製業が国家の一大産業になり、2000 年代に大量生産・大量消費型のファストファッションが世界的に流行すると、安い労働力を求めてグローバル企業が押し寄せました。 今や中国に次ぐ規模の衣料品の輸出国です。」

縫製工場では、貧困層の女性が働いています。 ラナプラザの事故後、縫製工場の労働環境は改善が進んでいますが、女性たちの職場を「奪う」状況も生み出した、といいます。

- 映画にも、縫製工場で働く女性たちが描かれていますね。

「バングラデシュでも、縫製工場は、長時間労働の割には賃金が低く、できれば『働きたくない場所』です。 働くのは、他に選択肢のない貧困層の女性たちです。」

「T シャツ 2 - 3 枚分の額の月収。 工場で起きる火災。 映画の主人公はそうした環境に疑問を抱き、労働組合を結成します。 13 年にあった出来事が元になっており、実際に当時、各地で縫製工場の火災や事故が起き、危険な労働環境が問題となっていました。」

- その末に起きたのが、同じ年の 4 月 24 日の「ラナプラザ」崩壊事故なのですね。

「このビルも、以前から建物の亀裂が確認されていたのに、操業を続けました。 納期に遅れれば契約を打ち切られる可能性もあり、止められなかった。 発注元のグローバル企業の要求が、工場が無理せざるをえない状況を作り出していたのです。」

先進国と途上国という構図のなかで

- 犠牲になったのが、貧困層の女性たち、だと。

「ただ一概に、いい、悪いといえない部分があります。 バングラデシュでは女性もエリート層、中間層、貧困層で働き先が分かれています。 エリート層は家事労働者を雇って働け、例えば現地の大学の教授陣はむしろ日本よりジェンダーバランスがとれている。 一方、その余裕のない中間層の女性は大半が専業主婦です。」

「貧困層の女性は、以前は外の仕事が家事労働くらいで、女の子が生まれると、親は早く結婚させるしか選択肢がほぼないという状況でした。 それが縫製工場という場ができ、女性たちの家庭内での地位が大きく変わった。 娘が稼ぎ手として期待されるようになり、婚家と実家の両方に仕送りをしているケースもあります。 縫製工場が女性たちの働く場所をつくり、経済発展にも貢献したという側面はあったと思います。」

「しかし今度は、先進国と途上国という構図の中で、搾取されているわけです。 何も変わらない、といえば言い過ぎですが、骨格は変わっていません。」

- ラナプラザの事故後、先進国では、アパレル産業のあり方を問う運動が広がりました。 現地の状況は少しは改善されたのでは。

「私は事故翌年の 1 年間、現地で過ごしました。 労働組合だけでなく、ジャーナリストや研究者たちも加わり、抗議行動を展開していました。 そうした声に押されるように、海外の発注元からはコンプライアンスが要求されるようになり、結果、労働環境に配慮しているかどうかの認証制度もでき、余力のある工場はその方向へ切り替えていった。 縫製工場の環境改善、という意味では一定程度前進したと言えるでしょう。」

「しかし、皮肉なことにそれが女性たちの職場を『奪う』状況も生み出してしまいました。」

- どういうことですか?

「人件費削減のため、機械化が進みました。 一方で、改善する余裕がない中小の工場は閉鎖に追いやられた。 これにより、多くの女性たちが失業したのです。」

「私は 2000 年から現地の子どもたちと共に学校に通うというスタイルで研究をしましたが、大人になり縫製工場で働く人も多くいます。 現在の状況を聞き取ったところ、待遇がよくなった結果、以前は女性の職場だった縫製工場でも、男性が増えたそうです。 バングラデシュでは、男性は経験を積み、自分のネットワークを使って条件のいい職場へと移っていきます。 品質管理や会計などの部門に入ることができれば、いずれ管理職になり、給与が上がっていく道が開ける。 しかし、そうした仕事は女性までほとんど回ってこない現状があります。」

安い商品を買わなければよいのか

- では職を失った女性たちはどうなったのですか。

「バングラデシュの人件費が上がったこともあり、縫製工場自体がヨルダンなどに移り、そこに出稼ぎに行くようになりました。 映画のモデルとなった女性の働いていた工場も閉鎖され、彼女もヨルダンに働きに行きました。 給与は若干高いけれど、拘束時間は長く、パスポートを取り上げられ、『文句をいうなら帰れ』といわれる。 外国人労働者の相談に乗る人権団体や組合などがなく、訴える先もないそうです。」

- 一人一人の状況は、改善からはほど遠いですね。

「グローバル企業が、安い労働力を使って大量生産する仕組みや、私たち先進国の消費者が安い商品を短期間で消費するようなパターンを変えていかない限り、本質的な問題は解決しないと思います。 こうした流れのなかでは、どうしても労働力のより安い地域、働く選択肢の限られる女性など、弱いところへ負荷をかけることにつながってしまいます。」

- では、安いファッションを買わない方がいいのでしょうか?

「ただ不買運動をすればいいのかというと、そうではない。 末端の工場がつぶれるだけです。 生計が苦しいなか服が安くなって助かった、という人も多いでしょう。」

「ファストファッションの登場で、良くも悪くも、服は『消費するもの』になりました。 学生たちを見ていると、おしゃれの楽しみ方が 1 世代前と変わったと感じます。 例えばコートも、私が学生時代は 1 着しか持っていませんでしたが、いまの学生は、3 - 4 着を服に合わせて替えるのが当たり前です。 服を着るということは、危険や寒さから身を守るだけでなく、自分を表現することでもある。 だから、ファッションを楽しむ気持ちを否定しても、解決にはつながらないと思います。」

- 「サステイナビリティー(持続可能性)」や「エシカル(倫理的)」をうたった商品も増えました。 意味があるのでは?

「前提として、企業がそうした言葉と実態の合う商品づくりをしていることが重要です。 若い人の間でも、言葉が浸透してきていることは感じます。 言葉が先走ったとしても、意識されることで大量消費の大きな歯止めになる可能性はあるでしょう。」

「中古品を取引するメルカリなどのおかげで、中古品への抵抗も薄れました。 大手アパレルメーカーなどが、いらなくなった服を回収する取り組みを評価する大学生も多いです。」

「ただ、それだけでは不十分です。 もう少し、構造に目を向けてほしいと思います。」

消費者はどうしたら

- 消費者はそこに、何を見るといいのでしょうか。

「消費者としては、商品の値段が上がらないことは『便利』です。 でも、なぜ上がらないのか、どこかにしわ寄せがいっているのではないのか。 そこに気づき、自分の問題として考えることが大切だと考えています。 そして、誰がどんな環境で服をつくっているのか、を想像してほしい。」

「かつてアジアの最貧国ともいわれたバングラデシュは、90年代に学校教育が農村部にまで広がりました。『教育第1世代』といわれた若者たちがいま、社会を支え、めまぐるしく発展しています。決して恵まれた労働環境とはいえないなか、少しでもよい生活を築き、自分らしく生きようとしています。いま自分が着ている服の向こう側には、そんな人たちがいるのです。」

- ただ、先進国に暮らしながら、そうした人たちを意識するのは簡単ではないとも思います。

「学生たちと話していると、最初はどうしても、『恵まれた日本』から途上国の問題を見る、という意識が強いです。 でも日本で暮らす私たちの生活も、グローバルな問題と直結するようになっています。 見方を変えれば、自分たちも社会で搾取される側になる可能性もある、という状況です。 機械化や人工知能 (AI) によって仕事が奪われるという問題も、ジェンダー間の経済格差も、もはや他人事ではありません。」

「服を買う時に、タグの生産国を確認してみてください。 どこで、どんな人が作っているか。 その想像力が、視野を広げてくれるはずです。 そうして一人ひとりの消費の仕方が変わっていけば、企業の間でも、本当の意味で持続可能でなければ生き残れない、という流れが強くなるでしょう。」 (聞き手・仲村和代、asahi = 4-26-22)

南出和余さん : 1975 年生まれ。 専門は文化人類学、映像人類学。 90 年代からバングラデシュと関わり、農村などでフィールドワークを続けてきた。



バングラ、工場閉鎖続き女性就労率低下

バングラデシュは、働く女性が減少した。 バングラデシュ開発研究所 (BIDS) によると、2016 年は女性就労者が 507 万人となり、13 年の 551 万人から減少した。 これに伴い、女性の就労率は 32.8% から 28.5% に低下した。 主要産業の衣料品製造で工場の閉鎖が続いたことなどが要因だ。 現地紙デーリー・ニューズが報じた。

BIDS は、13 年 4 月に発生したプラザビル倒壊事故のあと、主要な女性の雇用の受け皿だった衣料品製造分野で下請け企業の廃業が相次ぎ、工場閉鎖などによって女性の就労率が低下したと分析した。 地方を中心に世帯収入が増加し、工業地域から地方の実家に戻った女性が増えたことも要因の一つだとしている。

ただし、BIDS 幹部は、減少は一時的なものとし、経済成長とともに衣料品、皮革製品、情報通信技術、医薬品、玩具といった分野で女性の雇用が増加すると予想した。 政府に対しては、労働市場の需要増に備え、女性の職業訓練の充実などを図るよう提言している。 (sankei = 12-27-17)


バングラ衣料業に減益圧力 英国ブランド コスト増転嫁許さず

英国の欧州連合 (EU) 離脱(ブレグジット)の経済波及効果がロンドンから約 8,000 キロ離れたバングラデシュにも及んでいる。 昨年 6 月以降のドル高ポンド安を背景に、英国発の人気ファッションブランド「NEXT (ネクスト)」、「PRIMARK (プライマーク)」などを手掛ける小売業者は、ドル建ての仕入れコスト上昇分を価格転嫁することなく衣料メーカーに低価格を求め、現地業者を苦しめている。

EU 離脱で状況悪化

同国の衣料メーカーは通常、ドル建てで販売。 英アパレル小売りの輸入コストは上昇している。 ブレグジット以降、ポンドは対ドルで 16% 下落した。 バングラデシュは近年、世界のアパレル生産の中心になりつつある。 1 億 6,000 万人の人口を抱える同国にとって衣料品は輸出の約 80% を占め、英国は 3 番目の輸出先だ。

ネクストやプライマークのサプライヤーで、バングラデシュの衣料大手、プラミーファッションズのファズラル・ホック代表取締役は「われわれは価格競争の最中にいる。 値下げ圧力があらゆる方面からきている。 英アパレル小売業者は、将来の状況は悪化するだろうと共通のメッセージを送ってくる。」と指摘した。 同国経済は現状で持ちこたえているが懸念も残る。 同国の独立系シンクタンク政策対話センター (CPD) は、先月のリポートで、ブレグジットについてマイナスの影響と将来の市場アクセスに与える影響について警告した。

無税アクセス停止も

同国はポンド安による貿易面の影響だけでなく、英国の正式な EU 離脱後に採用される関税制度にも神経質になっている。 ブレグジットの実行後は、同国が現在享受している EU 単一市場への優遇的なアクセスが損なわれる可能性がある。 オックスフォード・エコノミクスのエコノミスト、バーチ・バルガバ氏(シンガポール在勤)は「ブレグジットの不透明感がもたらす懸念は、バングラデシュの輸出業者が全ての製品について無税の市場アクセスを一時的に停止される可能性があることだ」と述べた。

米金融大手シティグループの為替ストラテジスト、スティーブン・エングランダー氏は、トランプ米政権が中国製品に高関税を課す政策を実行すれば、バングラデシュなどコストの低い国に生産を移す動きが出る可能性を指摘する。 しかし、バングラデシュの衣料サプライヤーは不安を隠さない。 ネクストのサプライヤーでバングラデシュの衣料大手、エンボイグループのアブダス・サラム・ムルシェディ代表取締役は、自社製品の値下げ圧力に神経をとがらせている。 (Arun Devnath、Bloomberg = 2-18-17)


バングラデシュ : 衣料労組のリーダー 11 人を逮捕 1,600 人以上を解雇

バングラデシュの首都ダッカのアシュリア工業地区で 12 月に数万人の労働者が賃上 げ等を要求してストライキに入り、多くの工場が約 1 週間にわたって操業中止となっ た。 この闘いに対する報復弾圧の中で、政府は戦時を想定して制定された「特別権限 法」によって多数の組合リーダーを逮捕、拘留している。 以下はインダストリオールの 1 月 5 日付の声明である。

インダストリオールはバングラデシュにおける衣料産業労働者、労働組合リーダー、 労働者人権活動家に対する迫害の即時中止を要求する。

衣料産業における恐るべき反動として、この 2 週間の間に 11 人の組合リーダーと労 働者人権活動家が 1974 年の特別権限法の下で逮捕された。 同法は戦時に適用され る非常事態法である。 逮捕された 11 人の中にはインダストリオール加盟の 3 つの組合、BGIWF、SBGWF、BIGUF の 7 人の組合員が含まれる。 同時に、1600 人以上の労働者が解雇され、警察は労働者や組合リーダー約 600 人を送検した。

この弾圧は 12 月 12 日にダッカのアシュリア地区で行われたストライキの後に起 こった。 同日、労働者たちは最低賃金を現行の月 68 ドルから 190 ドルに引き上げ ることを要求してストライキに入った。 工場所有者たちは賃上げを強硬に拒否した。 この国での賃金は世界で最も低い水準で あり、住宅費や日用品、医療費が高騰しているにも関わらずである。 ストライキへの報復として衣料製造輸出協会 (BGMEA) は 59 の工場で生産を中止し、工場所有者たちは 1,600 人以上の労働者を解雇した。

ストライキが行われたウィインディ・アパレル社とファウンテン・ガーメント社は 239 人の労働者を刑事告訴した。 ヘミーム・グループも 1,000 人の労働者に対して 損害賠償請求を準備していると報じられている。 現地からの情報によると、今、多くの衣料労働者が怖くて工場に戻れないと言ってい る。 警察の迫害を逃れるために故郷へ帰った労働者もいる。 現地のインダストリオー ル加盟組合の事務所の大部分が閉鎖されるか荒らされている。

同国のインダストリオール組合評議会はすべての被拘留者の即時釈放と、警察による すべての送検の取り消しを要求している。 また、ILO に BGMEA との交渉の仲介 を要請している。 インダストリオールは他の組合や運動団体と共同で、バングラデシュの工場から製品 を仕入れている衣料ブランドに対して、バングラデシュ政府に拘留されているすべて の組合リーダーの釈放と、訴追の撤回と組合リーダーや労働者人権活動家に対する迫害の中止を求めるよう要請する書簡を送った。

バングラデシュは独立的な労働組合や労働者活動家への暴行、拷問、死の脅迫をはじ めとする忌まわしい歴史がある。 2012 年には活動家のアミヌル・イスラムが殺害 された。 ヒューマンライツ・ウォッチや他の第三者機関がこの事件への同国の治安当 局者の関与を強く疑っている。

インダストリオールのウォルター・サンチェス書記長は次のように述べている。

「バングラデシュの衣料産業における労働組合や労働者に対する弾圧を続けることは 許されない。 インダストリオールは政府が拘留されているすべての組合活動家とリー ダーを釈放し、多数の衣料労働者に対する訴追を取り消すよう要求する。 政府の弾圧は彼ら・彼女らを沈黙させることはできないし、われわれを沈黙させることもできない。 衣料労働者には基本的な権利である団結権があり、生活できる賃金を得る権利がある。 政府が衣料産業の労働者を人間として扱わないのなら、この国の重要産業であ る衣料産業を失うことになるだろう。」 (喜多幡佳秀、レイバーネット = 1-16-17)


中国の「361 度国際」、リオ五輪で知名度向上 スポーツ衣料大手

【北京 = 太真理子】 中国のスポーツ衣料・用品大手、「361 度国際(361ディグリーズ・インターナショナル)」の知名度が向上している。 リオデジャネイロ五輪で公式ウエアサプライヤーになり、大会スタッフらが同社のウエアを着用しているためだ。 五輪をテコにブランドイメージを高め、国内外での販売拡大につなげようとしている。 「361 度国際」は 2003 年設立の新興メーカー。 世界的な知名度は低く、同社の丁伍号総裁は「(今回の五輪を機に)ブラジルや世界のスポーツファンに商品とブランドを知らしめる」と意気込む。

格付け会社フィッチ・レーティングスによれば、中国国内のスポーツ衣料市場のシェアは独アディダスと米ナイキで計 37% に対し、「361 度国際」を含む国内勢は上位 5 社の合計でも 28%。 世界的に有名な欧米勢が優位に立っている。 香港市場に上場する「361 度国際」の株価は、知名度上昇による今後の販売拡大期待などから五輪前に比べ小高く推移している。 もっとも一部のアナリストの間ではサプライヤー契約の費用対効果に疑問の声もある。 (nikkei = 8-18-16)


欧米バイヤーによる衣料品調達が増加 『夜明け前のパキスタンから』

パキスタンの輸出全体が減少傾向にある中、衣料品の輸出は好調だ。 コストが増加する中国から、パキスタンへ調達をシフトする動きがある。 世界銀行の試算では、中国製衣料品の価格が 1 割上昇すると、パキスタンから米国への衣料品輸出が 25% 増加するという。 パキスタンは綿糸と綿布の生産地という印象があるものの、他国と比較して、衣料品の調達先としても劣っていない。 課題は地場企業の意欲と意識、そして女子工員と中間管理職の不在だ。

衣料品の輸出が増加

パキスタンの 2015 年度(7 月 - 翌年 6 月)の輸出額は、前年度比 8.6% 減の 220 億ドルと、2 年連続で減少した。 一方の輸入は 2.0% 減の 404 億ドルとほぼ横ばい。 年々拡大する貿易赤字は悩みの種だ。 海外出稼ぎ就労者からの送金受取が年間約 200 億ドルあるとはいえ、15 年度の経常収支は 25 億ドルの赤字。 外貨準備は 230 億ドル(今年 6 月末時点)と積み増されているが、外国から借金によるところが大きい。 政府借入(国際収支ベース)は 49.2% 増の 63 億ドルへ膨れ上がった。

期待されるのは輸出の増加だ。 当初、パキスタン政府は 25 年までに年間輸出額を 1,500 億ドルへ引き上げることを目標にしていた。 しかし、輸出は増えるどころか減っている。 今年 3 月、政府は「戦略貿易政策フレームワーク (STPF)」を発表。 18 年度までに 350 億ドル、と中期目標を再設定した。 パキスタンには目ぼしい輸出品が少ない。 比較優位を持つのは、繊維、皮革製品、野菜、鉱物などだ。 世界第 4 位の綿花生産国だが、15 年度は害虫や疫病の影響で不作になり、頼みの綱である綿糸・綿布の輸出が落ち込んだ。

例外的に輸出が増えているのが、衣料品やタオルといった繊維の完成品。 既製服の輸出額は、09 年度に比べて倍以上になっている。 ベッドウェアも 20 億ドルを超えている。 パキスタンの繊維製品の生産設備をみると、紡錘は 1,130 万錘(インドは 4,400 万錘、バングラデシュは 960 万錘)、織機が 39 万 7,100 台(インド 6 万 6,586 台、バングラデシュ 4 万 4,133 台)。 綿花から糸を紡いだり、糸から綿布にする設備は充実している。 一方、縫製工場の数は 765 カ所。 バングラデシュ(5,625 カ所)に比べると、随分少ない。 果たして、パキスタンの縫製産業は、今後拡大する余地があるのだろうか。

中国のコスト増で衣料輸出が増える

世界銀行が今年 3 月に公開したレポート「Stitches to Riches?」によれば、「中国が生産する衣料品の価格が 10% 上昇すると、パキスタンから米国への衣料品輸出は 25.3% 増加する」という試算結果が出ている。 米国のバイヤーは、仕入れ値が高くなる中国製を嫌い、パキスタンからの調達を増やすと予測されている。 グローバルに調達を行う欧米のバイヤーを対象にしたアンケート調査(13 年)によると、回答者の 72% が「今後 5 年間(12 - 16 年)、中国からの調達比率を引き下げる」としている。 パキスタンの衣料産業には追い風となろう。

バイヤーにとって、パキスタンはどのような特徴を持つ国なのか。 アジアで繊維製品の輸出額が多い 8 カ国について、品目毎に輸出能力(輸出額の大きさ)を相対評価でランキング付けをした。 こうすると、中国の繊維産業が非常に優秀であることが浮き彫りとなる。 綿花も生産できる上、綿糸・綿布、人造繊維、ニット、布帛既製服、ホームテキスタイルまで、すべてにおいて最上位の輸出能力を持つ。 ただし、賃金は高い。 バイヤーからすると、注文すれば間違いはないが、発注量はなるべく減らしたいに違いない。

中国以外であれば、ベトナムが手堅い選択肢だ。 賃金は中国の半分以下であり、バランスのとれた輸出能力を持つ。 さらに、日本向けなら経済連携協定を使い、関税 0% で輸出が可能だ。 東南アジアでは、インドネシアは人造繊維に競争力がある。 カンボジアは特恵関税を活用した、ニットウェアの縫製が得意だ。 南アジアでは、やはりバングラデシュが衣料品(ニットウェア、布帛既製服)の輸出に強い。 同国は賃金が安く、日本と欧州向けは関税 0% で輸出できる。 弱点である原材料については、綿糸も人造繊維も製造できるインドと組み合わせれば解消できる。

ただ、リスク分散の観点から、調達先は多い方が良い。 そこでパキスタンが浮かび上がってくる。 パキスタンは原料の綿花が収穫できる国であり、綿糸・綿布、ホームテキスタイルの輸出能力が比較的高い。 欧州向けは特恵関税 (GSP+) があるため、繊維製品は関税 0% で輸出可能だ。 また、将来的な労働力供給の見通しも十分で、縫製部門を強化できれば、垂直統合的な繊維大国になれる可能性が十分にある。

女子工員と中間管理職の不在

パキスタンの縫製産業には課題も多い。 第一に、生産品目に多様性が無い。 綿製のチノパンとジーンズ、安いニットウェア(ポロシャツと T シャツ)、スウェットへの依存度が高すぎる。 バランス化が必要だ。 第二が、地場企業の意欲と意識だ。 パキスタンの輸出を支援する専門家は、パキスタン企業の傾向として「綿糸と綿布の商売でそれなりに儲かるため、他事業への拡大意欲に乏しい」と指摘する。

品質意識のギャップも大きい。 バイヤーへの調査によると、パキスタン製衣料品の価格は、むしろバングラデシュよりも安いが、より低品質であると考えられている。 パキスタン企業は概して信頼性が低く、コンプライアンスへの意識も不足している、と思われている。 筆者が、とある地場のスポーツ衣料メーカーを取材した際、「日本へ輸出してもクレームばかりだから、もう取引したくない」と社長から言われたことがある。 よくよく話を聞いてみると、「寸法が 2cm 違っていたので返品された」という。 素人が聞いても、そりゃ駄目だろうと思う。

第三に労働者だ。 巨大な労働力を生かせていないことが惜しい。 世銀は、パキスタンにアパレル産業に特化した研修機関が少なく、技術やデザインの教育が未発達である点、縫製工場の中核となる中間管理層が養成されていない点を言及している。 とある日系商社に勤める A さんは、「女性の社会進出が遅れていることが一因。 人口の半数を使っていない。」と指摘する。 A さんが以前駐在していたバングラデシュでは、手先が器用な女性労働者が豊富だ。 パキスタンでは依然として、女性の教育・社会進出を否定する考えが根強い。 パキスタンでは男性の識字率が 71.3% なのに対して、女性の識字率は 48.4% と低い。 女性の職といえば家族農業の手伝いだ。

大規模な縫製工場の男女比率を比べると、バングラデシュでは男性 1 人に対して女性は 2 人。 パキスタンでは、男性 27 人に対し女性は 1 人と対照的だ。 A さんは「女性が働いた方が豊かになると分かれば、パキスタン人の意識も変わっていくのではないか」と期待している。 確かに、世銀の試算では、「パキスタンにおいて、女性の期待賃金が 1% 上昇すれば、女性が労働市場へ参加する確率が 16.3% 増す」という結果が出ている。

やや良い兆候が見られるのは治安面だ。 これまで欧米のバイヤーは、パキスタンの治安悪化を理由に、ドバイまでしか出張に来なかった。 パキスタン企業がドバイまで出張してミーティングするのが通例だった。 現在、国内の治安は多少良好になっている。 カラチのスーパーにも、白人が普通に見られるようになってきた。 欧米バイヤーのパキスタン出張も増えていることだろう。

日本の小売業やアパレルブランドの担当者が、パキスタンへ来訪することも多くなっている。 実は、パキスタンから日本への衣料品輸出も拡大している。 15 年、日本のパキスタンからの衣料品の輸入額は、前年比で 41.0% の大幅増となった。 日本では以前より、パキスタン製の衣料品やタオルなどを多く見かけるようになっているはず。 もし見かけたら、是非、手に取って、しげしげと眺めていただきたい。 (北見創 = JETRO、ニュース屋台村 = 8-12-16)


衣料品輸出に支えられカンボジアの GDP 成長率 7.2% と ANZ が予測

ANZ グループによれば、カンボジアの今年の国内総生産 (GDP) 成長率は EU への衣料品輸出に支えられる形で、約 7.2% になることが予想されており、2017 年も安定して 7.1% になると想定されている。 クメールタイムズ紙が報じた。 ANZ グループのアジア太平洋担当チーフエコノミストであるグレン・マグワイア氏は、「クライアント調査によれば、いくつかのクライアントがカンボジアの経済特区で操業開始しており、EU 輸出用にハイエンドな衣料品を生産し始めている。 EU 向け輸出品に付加価値が付与されるため、このくらいの成長率がキープされると考えている」と述べた。

カンボジア商務省の発表によれば、カンボジアの衣類・アパレル産業からの今年第 1 四半期の総輸出額は、前年同期の 15 億ドルから 39.1% 上昇して約 20 億ドルだった。 カンボジア縫製製造協会 (GMAC) によれば、衣料品総輸出の約 45% を EU が占めているという。 マグワイア氏は、「衣料品生産で培ったスキルを利用し、他の産業・セクターへと多様化していくことが重要だ。 現在のカンボジアはひとつの地域サプライチェーンに依存しすぎている」と主張した。

国際通貨基金 (IMF) も今年のカンボジアの GDP 成長率に関して、衣料品輸出の成長、不動産セクターの発展、石油価格下落に支えられて 7% になると報告しており、これは政府予測の 6.9% より 0.1% 高くなっている。 一方で IMF は、カンボジアの急速なクレジット業界の成長や不動産セクターにおける建設集中度合いの増加などの国内要因のみならず、中国の景気減速、欧州の成長鈍化、イギリスの EU 脱退に伴う国際金融市場の動きといった、経済的・金融的安定性を揺るがしかねない外部要因についても懸念を表明している。 (カンボジアニュース = 8-9-16)


ダッカ襲撃事件、バングラデシュ繊維産業は大打撃か

[ダッカ/ムンバイ] バングラデシュの首都ダッカで武装勢力が飲食店を襲撃し、外国人ら 20 人が死亡する事件が発生したことで、同国の主要産業である繊維業界の幹部からは欧米の主要顧客が関係の見直しに動くと懸念する声が上がっている。 繊維産業はバングラデシュの輸出の約 8 割を占め、雇用者数は約 400 万人に上る。 同国は先進諸国市場向けの衣料品の供給で中国に次ぎ世界第 2 位。

一方、武装勢力による襲撃事件はこの 1 年半で大幅に増えており、自由なライフスタイルを謳歌する市民が主な標的となっている。 アナンタ・ガーメンツのマネジングディレクター、シャヒドゥル・ハクエ・ムクル氏は「このような事件は間違いなく影響を及ぼすだろう。 米国や中国のなどの輸入業者はセキュリティー面の懸念からバングラデシュ訪問に慎重になる。」と話した。 バングラデシュでは 3 年前に工場などの入ったビルが崩落し、1,100 人以上が死亡する事故が発生。 その後の安全点検強化に伴う大量の工場閉鎖などを経て、繊維産業は回復の途上にある。

しかし今回の襲撃事件で外国人の警戒感は高まった。 バングラデシュ衣料製造業・輸出業者協会のモハンマド・シディクル・ラーマン会長は「これほどひどい事件は初めてだ。 バングラデシュのイメージは大きく傷ついた。 繊維産業には影響があるだろうが、どの程度かは現時点では言えない。」とした。 もっとも一部の業界関係者は、セキュリティー面の不安は対処可能で、製造業者はシンガポールや香港など海外で西側顧客と打ち合わせをするケースが増えると予想している。 輸出会社ブラザーズ・ファッションのアブドゥラ・ヒル・ラキブ氏は、外国人がバングラデシュでの打ち合わせに懸念を抱くのは数カ月程度で、半年もすれば状況は元に戻るとの見方を示した。

アパレル小売り大手のへネス・アンド・マウリッツ (H & M) と英小売り大手マークス・アンド・スペンサー (M & S) はいずれもバングラデシュでの操業にすぐに影響がでることはないとしている。 (Reuters = 7-4-16)


中国アパレル大手・波司登、1,300 店削減 過去 1 年で

【香港 = 粟井康夫】 香港上場の中国アパレル大手、波司登(ボシデン)は 30 日、主力であるダウンジャケットの小売店網を過去 1 年間に約 1,300 店削減したことを明らかにした。 電子商取引の拡大など中国の消費者の変化に応じ、不採算の小型店を閉鎖して収益力を高める狙い。 3 月末時点のダウンジャケット専門店は 5,271 店。 社員数は約 3,800 人と 1 年前に比べ 1 割削減した。 麦潤権・最高財務責任者 (CFO) は決算説明会で「インターネットで商品を注文し店舗では受け取るだけの顧客が多く、小型店は不要になっている」として大型店への統合を続ける一方、中国国内で 5,000 店体制は維持すると強調した。

伊藤忠商事と中国中信集団 (CITIC) は昨年 4 月、協業の第 1 弾として波司登に資本参加する計画を発表したが、株主総会で第三者割当増資が否決された。 その後も伊藤忠は業務提携を続けるとして、幹部級の人材を派遣していた。 「ベトナムでの OEM (相手先ブランドによる生産)など、伊藤忠とは緊密に協力している(麦 CFO)」という。 波司登の 2016 年 3 月期決算は純利益が 2 億 8,000 万元(約 43 億円)と前の期の 2.1 倍に拡大した。 売上高は 8% 減の 57 億 8,700 万元と縮小傾向が続いたが、コスト削減が功を奏した。 (nikkei = 6-30-16)


貧困救った幸せのバッグ 日本企業、途上国従業員を厚遇

2030 未来をつくろう

古びた自動車や人力車が行き交うバングラデシュの首都ダッカ。 渋滞で車が止まると、物売りや物乞いが窓を小突く。 そんな街の中心部から車で 1 時間半ほど西に行った郊外に、180 人ほどが働く工場がある。 布や革を切り出し、ミシンで縫い上げ、バッグを仕上げていく。 国連によると、バングラデシュは 1 日 1.25 ドル(約 134 円)未満で生活する人が人口の 4 割超(2010 年)を占める貧困国だ。 13 年、違法に増築された衣料品工場が入るビルが崩落し、1 千人あまりが亡くなった。 先進国の衣料品メーカーが安い労賃を求めて拠点を構える「世界のアパレル工場」と言われる裏で、労働環境の劣悪さが見逃されていた。

だが、このバッグ工場は様子が違う。 仕上げ担当のジャハンギール・ホセインさん (27) は、富裕層の家で召使をしていた。 そこから転職してきて 7 年。月収は 1 万タカ(1 万 4 千円)を超えた。 前職の 2.5 倍だ。 「冷蔵庫やテレビがある大きい部屋に住めて、家族も養えています。」 最近、家を建てるための土地も買った。 平均給与は業界平均の 7,800 タカより 5% ほど高い。 責任者のモハマド・マイヌル・ハックさん (38) は「医療保険も完備していて、大きなお金が必要なときは会社の無利子ローンも使えます。」 検品部門の明るい照明をまねするなど、他社が待遇面の参考にし始めている。

工場の所有者は日本のベンチャー企業「マザーハウス(東京都台東区)」だ。 大手メーカーと異なり、デザインから製造、販売まですべて責任を持つ。 現地調達した革や植物のジュートでバッグをつくり、手厚い待遇で従業員を貧困から救う。 デザインも担う山口絵理子社長 (34) は「途上国発の世界に通じるブランド」をめざす。 工場から約 5 千キロ離れた東京都心。 ナチュラルな内装のマザーハウス本店に並ぶバッグは、革素材ながら軽く、デザイン性の高さなども女性に喜ばれている。 2 万 - 5 万円ほどで決して安くないが、それでも貧困を減らす新しい支援のかたちに魅力を感じる消費者に支えられ、経営は軌道に乗り始めた。

倫理性を重んじる消費者が支持

貧困や格差といった課題の解決に役立つ製品・サービスを提供する企業、それを選ぶ消費者が増えている。 国連による 2030 年までの「持続可能な開発目標 (SDGs)」にも一役買う新たな動きだ。 2 日午後、東京都台東区のマザーハウス本店。 8 日の母の日が近づき、買い物客らがプレゼントを探していた。 20 代の女性は「バングラデシュで働く人のためにもなる。 商品選びのプラス材料です。」

こうした考え方は「エシカル(倫理的)消費」と呼ばれる。 売り上げの一部がカカオ産地の児童労働を防ぐ取り組みに寄付される森永製菓のチョコレート、原材料の安全性テストに動物を使わない英ラッシュの美容用品 - -。 倫理性を重んじる消費者の支持こそ、マザーハウスの強みだ。 同社は 3 月、創業 10 年を迎えた。 ダッカの大学院で開発学を学んでいた山口絵理子さんが、単なる資金援助では貧困を解決できないと考え、布の材料になる現地の植物ジュートを使った「かわいい」バッグを輸出しようと起業した。

順風満帆ではなかった。 当初は工場の確保もままならず、買い付けた素材を丸ごと持ち逃げされたこともあった。 それでも、できた商品は消費者が意義を感じて買ってくれた。 開発拠点にしてきた工房の退去を迫られたのを機に、いまにつながる自社工場を建てた。 品質とデザインにこだわる。 山崎大祐副社長 (35) は「自社企画だから良いものがつくれる。 なるべく在庫を持たず、セールもしません。」 ただ、それが現地で十分に給料を支払い、職人を育てている対価であるというストーリーとなり、ファンを増やした。 経営的には、ここ 4 年でようやく安定し、直近の年間売上高は 10 億円、営業利益は 1 億円をそれぞれ超えた。

生産地や品目は増えている。 09 年に進出したネパールでは、地元名産のシルクやカシミヤを使ったストールを、糸紡ぎから染色まで一貫生産する。 さらに源流を追って養蚕にも乗り出す予定だ。 15 年には、インドネシアのジョクジャカルタに伝わる線細工フィリグリーを使ったジュエリーの生産も始めた。 売り上げは、ほとんどが直営店での販売だ。 日本の 18 店のほか、台湾に 6 店、香港に 2 店を構える。 「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という哲学への共感は、海外の顧客にも広がる。

台湾の会社員、曹斯永さん (33) も、そんなうちの一人だ。 「品質やデザインにもひかれています。 友達や家族にも薦めているところ」という。 昨年、台北でマザーハウスが開いたイベントで山口さんに頼み、特注の結婚指輪をつくってもらった。 山口さんは「『人生とつきあうブランドにしたい』と思い始めたところでの依頼でした。 結婚という場なら、きちんと表現できる。」と話す。 起業当初、採用面接したバングラデシュの女性は「15 人の家族のために頑張ります」と言った。 最近、途上国では「家族の絆こそがすべての核」と改めて思っていた。

途上国での経験と、消費者との対面が、商売の新たなコンセプトを生み出しつつある。 マザーハウスは今夏、オーダーメイドによる指輪の受注を始めるつもりだ。(ダッカ = 福田直之、asahi = 5-9-16)

持続可能な開発目標 (SDGs)》 昨年 9 月の国連総会で決められた、2030 年までの 15 年間で取り組む行動計画。 今年 1 月にスタートし、30 年末までの達成を目指す。 「貧困をなくす」、「ジェンダー平等」といった 17 項目からなる。 国連は 01 年に「ミレニアム開発目標 (MDGs)」をまとめ、15 年の達成期限までに途上国の貧困改善などに成果を上げた。 その後継として SDGs がつくられ、従来の途上国支援に加え、気候変動への対策など幅広い課題も盛り込まれた。 法的拘束力はないが、国連を中心に進み具合を監視していくことになっている。



バングラデシュ縫製工場倒壊から一年、欧米はどう対応したのか

2013 年 4 月 24 日、バングラデシュ・ダッカ郊外にある縫製工場ビル「ラナ・プラザ」が倒壊。 死者 1,100 人以上、負傷者 2,500 人以上もの犠牲者を出す大惨事となりました。 米メディアは、事故から現在に至るまで、その後の状況や政府・企業の対策を何度も報道。 一年が経過した今、再び注目が集まっています。 なぜこれほどにこの事故が注目されるのか、明らかになった問題や事故後の国や企業の対策を追ってみたいと思います。

欧米が事故に注目する理由

この事故が注目されている理由のひとつは、バングラデシュでは以前から建物崩壊や火災による縫製工場での死亡事故が多発していたことです。 64 人の死者を出した 2005 年の縫製工場ビル倒壊事故を皮切りに、10 年の工場火災では死者 29 人、12 年の工場火災では 100 人以上の死者を出しています (Canada CBC)。

同国の縫製工場で事故が多発するのは、建築基準や労働基準が緩いうえに遵守されていないため。 ラナ・プラザでも違法増築が行われており、倒壊前日に建物支柱に亀裂が見つかり避難警告が出されたものの、工場責任者が従業員に翌日出社させ業務を開始したことが、大事故に繋がった要因と見られています(ガーディアン)。

もうひとつの理由は、これら工場に縫製を依頼していたのは、欧米の大手小売・アパレル企業だったことです。 バングラデシュは中国に次いで世界第 2 位のアパレル輸出国。 輸出先の 60% が欧州、23% が北米と、両者で 80% 以上を占めています(日本は 2%、BGMEA)。 自分たちが購入している製品の生産工場で起こった事故ですから、欧米の消費者にとって対岸の火事では済まされません。

事故が起こる度に、メディアや市民団体は小売・アパレル各社を非難。 同国での安全基準を改めるよう、要請していました。 しかしながら、同国内の対策は一向に進まず、千人以上もの犠牲者を出したラナ・プラザの事故が世界中の注目を集めたことで、ようやく国や企業が真剣に対策を取り始めました。

同じ目的をもつ、ふたつの国際同盟

事故の 3 週間後、国際労働機関や NGO が中心となり、バングラデシュ縫製工場の安全性確保のための国際合意「アコード(バングラデシュ火災・建物安全合意)」が創設されました。 欧州からは H & M やインディテックス(ザラ)、カルフール、アメリカからはカルバン・クラインやトミー・ヒルフィガーを傘下に持つ PVH など、多くの企業が参加を表明しました。

世界的に足並み揃えて取り組み始めるかに見えましたが、ウォルマートやギャップなど米大手企業がこれに反発。 同合意は法的拘束力があるため、訴訟や予期せぬ義務が発生する可能性があるとし、米上院議員らのサポートを得て独自の同盟「アライアンス(バングラデシュ労働者安全同盟)」が発足しました。 ひとつの目標を達成するために、ふたつの国際同盟ができ、互いに優位性を主張しあうようになってしまいました。

現在、アコードには欧州企業を中心に北米を含む世界各国の 150 社以上が署名。 会員企業が提携するバングラデシュ内の工場は 1,600 以上に上ります。 一方、アライアンスには北米大手企業 26 社が参加し、提携企業は 700 以上。 日本からは、ファストリテイリング一社のみがアコードに署名しています。

どちらも 5 年間の期限付き合意で、会員企業から資金を集め、全提携工場の査察と安全性の訓練を行うというもの。 安全基準に満たない場合は同国政府に報告し、修繕するまで工場の稼働を強制停止します。 修繕費用は、アコードは会員企業が何らかの形で資金援助を行いますが、アライアンスは当初ローン保証のみとしていました。 しかし、競争意識からか、メディアに煽られたためか、現在では各会員企業が修繕費用として計 1 億ドルの資金援助を行うことを約束しています。

稼動停止中の労働者への賃金保証は、アライアンスは会員企業が半額を保証、アコードは労働者への賃金支払いを強制するものの資金援助は行いません。 しかし、アコードには現地労働組合も名を連ね、労働者視点であることを強調。 期限中に会員企業が生産拠点を他国に移さないことも約束しています。

いずれも一長一短あるようですが、両者とも既に多くの工場の査察を完了。 稼動停止している工場もあります。 ただし、両者合わせても提携工場は 2 千強。 バングラデシュには 5 千以上の縫製工場がありますから、残りの 3 千はどこが査察責任を負うのか懸念されています。 同国政府も査察を行っていますが、時間がかかるでしょうし、安全性に問題があった場合に修繕費用が賄えるのか疑問です。

欧米政府の対応

一方、欧米政府も対策を行っています。 米政府は、労働者の安全基準が確立するまでバングラデシュへの関税優遇制度を一時停止することを、昨年 6 月に発表。 EU は、経済制裁は行っていないものの、バングラデシュ政府に対し労働法の改正や縫製工場の安全基準改善を要請しています。 こうした各国の圧力により、役人と企業の癒着が徐々に改善に向かい始め、火災事故で死者を出しても処罰を免れていた縫製工場経営者らが、法的に罰せられるようになってきています (Time) 。

生産時の労働者の安全は、誰が責任を負うのか。 生産を依頼する企業なのか、工場なのか、政府なのか、議論は続いています。 途上国にとってアパレル生産は国家発展の鍵を握る経済の要ですから、アコードの誓約のように、問題が起こっても安易に他国に移転せず、サポートしながら生産を続けることが、国際社会における企業の責任といえるのかもしれません。

そして、多額の費用をかけて社会責任を果たそうとしている企業を支持し、製品を購入する際に価格の裏にある生産背景を考えることが、消費者の責任といえるのではないでしょうか。 (田中めぐみ、Yahoo! = 4-24-14)


欧米の衣料小売業者、バングラ工場の安全確保で独自対策

【パリ】 衣料小売業者は自社が利用するバングラデシュの衣料工場の安全性の監視をますます強化している。 主要アパレル企業が参加する労働環境の安全確保を目指した協定が完全に効力を持つのは今秋になるため、これを先取りする形で業者は独自に取り組んでいる。

安全確保の緊急性が小売業者に広がっているのは 4 月に 1,100 人超の犠牲者を出した縫製工場の崩壊事故があったためだ。 この事故では、世界有数の衣料品製造国であるバングラデシュの工場の管理体制の欠如が浮き彫りになった。 ヘネス・アンド・マウリッツ (H & M) や主力ブランド ZARA を展開するインディテックス、アソシエーテッド・ブリティッシュ・フーズ傘下のプリマークといった衣料小売業者は急きょ、業界全体を対象とした安全協定の策定に乗り出した。 この協定は 8 日から効力を発揮する。

しかし、多くの業者は独自に競合他社と連携しつつ、安全協定の機能の一部を先取りする形で取り組みを始めている。 この新たに生まれた協力は、バングラデシュでの事業展開について小売業者に降りかかる圧力を物語っている。 小売業者らは専門家を雇い、自社契約先の工場の安全性の点検を急いでいる。 業界の安全協定の検査責任者が同じ建物を点検する前であってもだ。

英小売業者のテスコとプリマークは先月、崩壊したラナプラザに近いサバールのリバティ・ファッション・ウエアーズの工場で建物の構造上の問題を発見したと発表した。 4 階建ての工場は、その重量を支えるために十分な鉄筋が使用されていないため、ラナプラザ同様に崩壊の危険があると小売業者は指摘した。

テスコとプリマークはその後、同じ工場で製造するカルフールやデベナムズを含む業者と連携した。 業者によると、両社は 2 週間前には、労働組合との共同署名で工場のオーナーに書簡を送り、さらなる検査と修理が完了するまで工場を閉鎖するよう求めたという。 また、工場が閉鎖されている間も賃金が支払われることと、工場の安全性が確保された後には業者からの受注分を終わらせるよう求めた。

工場のオーナーに何度か連絡を試みたが、成功しなかった。 小売業者は仕入れ先リストも共有している。 これは競争面の観点から使われていた情報だ。 多くの業者が同じ工場を利用するため、複数の業者が連携することによって、工場側に状況の改善を強く要求できると業者は確信している。

業界の安全協定に参加する業者は夏の間に安全協定が対象とする工場のマスターリストを作成する予定だ。 バングラデシュにある 5,000 カ所の工場のうち 1,500 - 2,000 カ所が対象になると参加業者は予測している。 安全協定によると、すべての工場はラナプラザ崩壊からちょうど 1 年後となる来年 4 月までに検査されなければならない。 この期間 5 年の安全協定は同国で、火災と建物に対する安全基準を強化するのが目的だ。

小売業者 70 社 - - ほとんどすべてが欧州の企業だが - - は 5 月中旬以降、法的拘束力のある安全協定に署名してきており、安全基準を満たさない工場の修理費を援助するほか、安全ではないと判断された工場とは契約しないことを約束している。 インディテックスと、カルバンクラインとトミー・ヒルフィガーの親会社 PVH、そして、英通販小売業の N ブラウン・グループが業界を代表して安全協定の導入に当たっている。

一方、米小売り大手のウォルマート・ストアーズとギャップは 5,000 万ドルの安全基金を設立するプログラムの導入を推進している。 事情に詳しい関係者が明かした。 同関係者によると、早ければ 7 月中旬にも発表されるという。 安全協定に参加する欧州の業者群は 2 つの重要な役職の人材探しを始めたところだ。 それは検査責任者と事務局長だ。 検査責任者は、協定に参加する業者が契約するすべての工場の建物の安全評価に整合性をもたせる役割を担う。 (Christina Passariello、The Wall Street Journal = 7-8-13)


「危険で長時間でも工場で働く」 - バングラデシュ女性たちの現実

【カプドン(バングラデシュ)】 倒壊した衣料品工場ラナ・プラザ・ビルのがれきの間から救助されたとき、マヒヌル・アクターさんは血だらけで、意識もほとんどない状態だった。 それから 5 週間後、この 10 代の少女は生まれ故郷に戻っていた。 義務感と恐怖にさいなまれながら。 縫い子として稼げる 90 ドルから 100 ドルの月給が必要。 でも、それには長時間労働や厳しい現場監督がついてくるし、がれきの間で耐えた恐怖も忘れられない - -。 アクターさんは家族が住む土壁の家の日陰で考えていた。

アクターさんは「がれきの間に挟まっている夢を見る日が続いています。 これからもずっと怖いと思うでしょう。」と話した。 しかし、アクターさんは女手一つで 2 人の弟を育てる母を支え、弟たちを学校に行かせなければいけないというプレッシャーを感じている。 昨年、製材工場で夜間警備員をしていた父親が交通事故で亡くなったあと、弟たちは学校を中退した。 「私の給料がなければ、どうやって家族は生きていけるんだろう。」 アクターさんは自分の年齢は 15 歳か 16 歳だと言った。 母親でさえアクターさんが何歳なのか、よくわからないそうだ。

バングラデシュは今、産業革命が起きている。 その最前線で働く何百万人もの若い女性にとって、安価な衣料品を求める海外からの需要は貧困から家族を救うチャンスだ。 衣料品事業が急速に拡大したおかげで、最貧国の 1 つに位置づけられているこの国の収入は跳ね上がった。 世界銀行によると、バングラデシュの貧困層は 2000 年以降、25% 以上減少した。 1990 年代には 1 人当たりの国内総生産 (GDP) 伸び率は年平均で約 2.7% だったが、2000 年代に入ると約 4.4% に上昇した。

安価なバングラデシュ製の衣料品がウォルマート・ストアーズやヘネス・アンド・マウリッツが運営する H & M、インディテックスの Zara (ザラ)といった巨大小売業者の商品棚に並べられ、西側の消費者がそれを買っているからだ。 しかし、バングラデシュの衣料品工場は労働者の犠牲抜きには語れない。 労働者によると、ミシンの前で 1 日 12 時間以上を過ごすこともあるという。 労働者の多くは家族や故郷の村から離れて暮らしている。 働くために学業をあきらめた人もいる。

今年 4 月 24 日にラナ・プラザ・ビルが倒壊したとき、アクターさんはビルの 4 階でシャツにボタンを縫い付けていた。 倒れてきた機械がアクターさんの片脚の肉をえぐった。 アクターさんは右足の一部も失った。 いくつものコンクリートの塊が落ちてきて、その下敷きになった。 アクターさんはそれから 8 時間後に救助され、20 日間にわたって入院した。 ビルの倒壊による死者数は 1,100 人を超えた。

賃金が安い衣料品製造などの労働集約型産業に支えられて、貧困国は経済を発展させ、国民に富をもたらすことができた。 例えば、タイやスリランカは衣料品製造に力を入れて、発展を遂げた。 バングラデシュの成長が続くかどうかはアクターさんのような労働者の努力次第だろう。 バングラデシュでは輸送機関が老朽化しているし、停電も起きる。 政治情勢も不安定だ。 こうした悪条件にもかかわらず、労働者の賃金が相対的に低いおかげでバングラデシュは国際貿易で優位に立つことができるのだ。

ラナ・プラザ・ビルの倒壊後、工場の安全が疑問視された結果、海外の衣料品バイヤーが一斉に逃げ出すのではないかとの不安が募った。 バングラデシュの経済活動が勢いを失いかねない。 バングラデシュの 1 人当たりの年間 GDP は現在、約 820 ドルだが、これに対して、中国は 6,000 ドル以上、米国は 5 万ドルに近い。

「バングラデシュは極貧国だ。 この国にはこうした仕事がまだ必要だ。」と世界銀行ダッカ事務所のエコノミスト、サルマン・ザイディ氏は指摘した。 「安全性を向上させ、待遇を改善することが必要だが、他の産業より(衣料品製造のほうが)いい仕事」だそうだ。 この負担の多くを背負っているのがバングラデシュの女性だ。 衣料品製造業界では約 400 万人が働いているが、そのうち女性が 80% 以上を占めている。 多くが 10 代後半から 20 代前半と若く、貧しい農村出身だ。 仕事場は首都ダッカかバングラデシュ第 2 の都市チッタゴンの周辺にある。

アクターさんは「私が働かなければ」と話す。 「バングラデシュの女性にとって、衣料品が一番いい選択なのです。」 アクターさんの両親が多額の借金を抱えてカプドンを離れたとき、彼女は小学校 2 年生を終えたところだった。 この村はベンガル湾に近い低地にあり、ほとんどの世帯が食糧として米を作り、魚を育てている。 住民の半数以上は非常に貧しい生活を送っている。 (Gordon Fairclough、The Wall Street Journal = 6-23-13)


バングラデシュの衣類工場で今度は火災、7人死亡

ダッカ : バングラデシュの首都ダッカの警察当局などは 8 日、市内の 11 階建てビル内にあるセーター生産工場で同日深夜、火災が発生、少なくとも 7 人が死亡したと述べた。 工場の経営幹部によると、火災はミルプール地区にあるビルの 3 階部分で起きた。 死者にはビル内で会合していた警官や工場経営者らが含まれる。 幹部は病院当局者の話として、7 人全員が窒息死だったと語った。

この火事による負傷者の有無は伝えられていない。 ただ、同国の消防当局者は CNN の取材に、現地時間の午後 11 時ごろの出火当時、工場は閉鎖されており、従業員はいなかったと説明した。

ダッカ郊外のサバール町では先月 24 日、縫製工場などが入ったビルが倒壊する事故が発生。 同国の輸出を大きく支えるアパレル産業での安全操業管理の無視が改めて暴露され、抗議行動の多発などを招いていた。 この事故に関連し、政府当局者は 9 日、死者は 912 人にさらに増えたと報告した。 救出者はこれまで 2,400 人以上で、行方不明者は事故発生当初、数百人規模とされていた。 (CNN = 5-9-13)


バングラの倒壊、死者 300 人超 「世界のアパレル工場」安全置き去り

バングラデシュの首都ダッカ郊外で起きた衣料品工場などが入るビルの崩壊事故による死者は 300 人を超えた。 地元警察は 27 日、過失致死などの疑いで工場経営者ら 4 人を逮捕。 「世界のアパレル工場」として脚光を浴びる同国で、安全対策のずさんさが浮き彫りになっている。 地元メディアによると、死者は 340 人に達した。 8 階建てのビルに五つの縫製工場が入り、従業員は計 3 千人以上。 2,400 人以上の生存が確認されたが、がれきの下になお多くの人が閉じ込められているとみられる。

地元警察は 23 日、ビルの壁にひびが見つかったため入居者に退避を要請したが、各工場は操業を続け、24 日にビルは突然崩れた。 このビルは違法に建て増しされていた疑いもある。 バングラデシュは世界 2 位の衣料品輸出国。 首位・中国の人件費が上がるなか、ユニクロや米ギャップといった世界的な低価格衣料ブランドが生産を増やしてきた。 日本貿易振興機構によると、日系企業の工員の賃金水準は中国の 4 分の 1 以下。 アジアで下回るのはミャンマーだけだ。

崩壊したビルの工場のウェブサイトには、顧客として米ウォルマート・ストアーズの名前もあった。 ウォルマート側は関係を認めていない。 ただ、大手から生産を委託された工場が無断で下請けに仕事を回すこともあり、実態の把握は難しい面もある。 事故後、現場近くでは工員ら数千人がデモ行進し、怒って車を壊すなどした群衆と警官隊の衝突が起きた。 (ニューデリー = 庄司将晃、asahi = 4-28-13)