留学生、繰り返し転売 精密機器 10 点、中国向けに

国土交通省の防災ヘリに搭載されていた軍事転用可能な赤外線カメラが中国に流出したとされる事件で、中国人留学生の男 (22) = 外為法違反容疑で書類送検 = が、日本のオークションサイトで多数の精密機器を購入し、うち約 10 点を中国向けに転売していたことが警視庁への取材でわかった。 一部は中国の大学に売ろうとした形跡もあったという。

捜査関係者によると、留学生は 2015 年 10 月の来日以降、公安部が自宅を捜索した今年 7 月までにネットを通じてカメラ類やオシロスコープなどを購入。 うち約 10 点は中国に自ら手荷物として運んだり、国際宅配便で品目を偽って送ったりしていた。 売却先は中国のオークションサイトや中国在住の知人を通じて探していたという。

中には輸出が制限されている「リスト規制」の対象品も含まれていた。 その一つが書類送検の容疑となった赤外線カメラで、中国の軍事用品を扱う会社に約 250 万円で売却していた。 ほかに南京の大学から米国製カメラを買いたいという問い合わせもあったが、契約はまとまらなかったという。 公安部は、金目的で転売を繰り返す留学生に、中国の軍事関連企業や学術機関が関心を示していたとみている。

また、書類送検容疑の赤外線カメラの破砕処理を請け負いながら転売していたとされる廃棄物処理会社が、他にもリスト規制にかかるカメラ 2 台を処分せずに転売していたことがわかった。 国交省は事態を重く見て昨年度末、重要な物品に関しては廃棄現場への立ち会いを求め、処分時の写真の提出をするよう元請け業者などに通知した。 (asahi = 11-26-17)


外国人技能実習 来日費用 100 万円、足かせ 滞る返済

「絶対、帰りたくない。」 ベトナムから来日した外国人技能実習生のチャン・バン・ハーさん (25) は昨年 11 月、実習の受け入れ団体の職員に連れてこられた岡山空港で泣きわめいた。 「新しい職場に行く」と言われていたのに突然、帰国を命じられ、ベトナム語と中国語、片言の日本語で抗議して何とか逃げ出した。 戻れない理由があった。 銀行と高利貸から計約 100 万円を借金し、母国の送り出し団体に手続き料(約 75 万円)と保証金(約 25 万円)を納めて来日したが、低賃金で返済は滞っていたからだ。

この 4 カ月前、広島市の食堂運営会社に受け入れられ、大阪府内の官公庁の食堂に派遣された。 ただ、仕事は少なく手取りは月約 1 万 5,000 円で、母国のレストランで働くよりも待遇は悪かった。 「1 日だけ出張に行くぞ」と言われ、急きょ向かった長崎県内の高校の寮で、明け方から寮生の朝食を準備する勤務が 2 カ月続いた。 ビジネスホテルから職場に通わされ、十数万円の給与から諸経費が引かれ、手取りは 6 万円ほどだった。

ベトナムのハロン市出身。 シングルマザーで長男 (7) を実家に残し、学費を稼ごうと来日。 元炭鉱労働者の父親は体が弱く働けない。 市場で働く母親のアルバイト代でチャンさんの長男の学費を賄っている。 借金の不安で押しつぶされそうになった。 待遇の改善を求め、受け入れ団体と実習先を支援する組織に電話したが、帰国させられそうになったのは、その直後だった。 「助けを求めたのになぜ帰国なのか。実習生をバカにするな」と悔しさを隠せない。

近年は中国からの実習生は減り、ベトナムやミャンマーなどからの来日が増えている。 四国地方の縫製工場で実習していたミャンマーの 30 代の女性は残業代が時給 400 円。セクハラ行為も受け、職場から姿を消したが、失踪を理由に母国の家族が保証金を含めた計約 100 万円の賠償を求められている。 賃金不払いなどが問題化し、実習制度の適正化法が施行されたが、来日時に多額の借金を抱える実習生に職場を移る自由はない。 西日本で実習する別のベトナム人女性は、受け入れ団体幹部の仕事上の接待に同席させられたこともある。 この女性も約 100 万円の来日費用を払っており、「仕事を失うのが怖くて文句は言えなかった」と漏らした。

実習生にとって重い負担となる来日費用は、新法も規制は難しい。 手続き料の報告は義務付けられたが高額かの基準はない。 保証金は 2010 年から禁止されているが、徴収されるケースが後を絶たない。 来日費用への対応は、相手国に任せるしかないのが現状だ。 チャンさんは支援者を頼り、35 万円の追加の給与を受け取ることで実習先と和解したが、来日時の借金返済のめどは立たない。 「もっと日本で働かないと。」 母国に残した長男の将来を案じて泣くが、就労できない短期ビザに切り替わり、帰国の時が迫っている。 (mainichi = 11-24-17)

外国人技能実習制度

途上国の外国人が来日して建設や食料品・衣服製造など 77 職種で技能を学ぶ制度。 日本の技能を海外に伝える国際貢献が目的で、1993 年に始まった。 主に海外の送り出し団体が実習生を現地で募集し、日本の受け入れ団体が実習先にあっせんする。

劣悪な労働を強いるケースが後を絶たず、受け入れ団体や実習先への監督を強化する実習制度の適正化法が 1 日に施行された。 国は監督権限を持つ外国人技能実習機構を新設し、機構は受け入れ団体 1,971 カ所(昨年末時点)と実習先 4 万 473 カ所(同)を実地検査する方針。 実習先などが優良認定されれば、最長 3 年だった実習生の在留期間は 5 年に延長され、受け入れ枠も増える。

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ベトナムの送り出し機関が長岡市で外国人技能実習生制度セミナー

外国人技能実習生の国別トップはベトナム

人材の送り出し機関である「クインハノイ投資、商業及びサービス有限会社(ベトナム国ハノイ市、グエン・ティエン・ズン社長)」は 18 日、長岡市で、「外国人技能実習生制度セミナー」を開催した。 講師は、同社のファム・ティ・ヒエン日本部長。 人材難に直面する県内中小企業関係者に向け、日本の技能実習制度の概要や、同社の特色などを説明した。

外国人技能実習生を国別でみると、これまで中国が最多だった。 だが、今年に入り、ベトナムがトップになった。 背景には、中国の平均年齢の高齢化や経済発展、まだ平均年齢が若いベトナム側の国を挙げた熱心な取り組みなどがあるとみられる。 そうしたなか、台湾、中東、マレーシアへの人材送り出しを行っているクインハノイでも 2013 年、日本への留学生や実習生の送り出しを開始した。 現在、48 名の従業員数のうち、33 名が日本事業部に所属。 このうち 5 名が、日本駐在員として、新潟、静岡、岡山、広島、福岡に駐在している。

「新潟では、(来年 4 月に正式発足する)新潟ベトナム交流会(山倉誠太郎代表)からもサポートしていただきます。(ファム・ティ・ヒエン日本部長)」 日本事業部に手厚い人材が配置されていることもあり、実習生は、2013 年(32 人)、14 年(110 人)、15 年(202 人)、16 年(314 人)、17 年(140 人)と年々増加し、累計 454 人にのぼっている。 業種別では、食品加工 (26%)、建設 (31%)、農業 (20%)、漁業 (12%) が多い。 また、地域別にみると、九州では農業の比率が高く、関東ではビルクリーニング業の比率が高くなっている。

一方、人材については、「専門学校と提携し能力のある人材を確保している(同)」ほか、同社の教育システムも充実している。 例えば、4 階建てで 400 人が入居可能な「講習実習センター(日本語訓練センター)」があり、ここで、試験前の予備教育や、合格後の出国事前教育を行っている。 合格後の教育では、「300 時間以上の日本語学習や、専門用語、実技、日本文化の学習(同)」のほか、掃除(毎朝 6 時 15 分から)、ラジオ体操(1 日 2 回)などが日課となっている。 また毎月、学習評価テストを行い、弱点の洗い出し、補強も行っている。

日本に行く目的が不明瞭な場合は選抜しないことや、日本駐在員のフォローなど、失踪者対策も徹底している。 「これまで失踪者はゼロです(同)」と話す。 問い合わせは、(+84) 24 33 542 968 (日本語対応可能)。 (にいがた経済新聞 = 11-18-17)


「技能」海渡らぬ現実 実習制度、建前に限界

11 月に新制度がスタートし、いまや日本の外国人受け入れ政策の中核となった技能実習制度。 その「ひずみ」を追った。

「べんきょうしてください」、「あそんでください」

今月初め、ベトナムの首都ハノイ郊外の田園地帯に立つ 6 階建てビルを訪れると、若者らが日本語の例文を大声で唱和していた。 同国には日本で働きながら技術を学ぶ技能実習生を送り出す会社が 240 以上ある。 ここはその一つで、帰国後、母国の発展への貢献が期待される約 180 人が研修している。 日本語教師として教壇に立つのはグェン・ティ・クィン・チャンさん (24)。 昨年 2 月までの 3 年間、靴下製造「イイダ靴下(本社・奈良県)」の佐賀県江北町の工場で実習生として働き、縫製技術を学んだ。

同社は 2002 年からベトナム人実習生を受け入れてきた。 実習生から「お父さん」と慕われる飯田清三会長 (75) は帰国した「卒業生」との交流を続ける。 そんな飯田さんが年々深めた確信がある。 「技術がベトナムに渡っていない。」 卒業生は計 111 人になった。 だが、帰国後も縫製業に携わっているのは 4 人。 しかも、うち 3 人はイイダ靴下が合弁で昨年現地に建てた工場で働く。 多くはチャンさんのように日本語力を生かした仕事をしている。 より高給が期待できるからだ。

技能実習制度が掲げる「途上国への技能移転」は建前で実態は割安な労働力の確保だ、と指摘されてきた。 実習生は昨年末時点で約 23 万人でベトナム人が約 8 万 8 千人と最多。 その送り出し国で「建前」が崩れている。 ベトナム国家大学ハノイ校のベトナム経済政策研究所は日本の国際協力機構 (JICA) の委託で、昨年から今年にかけて帰国した実習生らの状況を調べた。 回答した 112 人のうち「今の職業は日本での研修と関係がある」と答えたのは 28% だった。 「日本の労働力調達策のひとつだろう。」 グェン・ドゥック・タイン所長はそう話す。(機動特派員・織田一 機動特派員・織田一、asahi = 11-21-17)


外国人実習生 介護担える働く仲間に

働きながら技能を学ぶ外国人技能実習制度が 11 月から、介護分野にも拡大された。 初の対人サービス職だ。 やりがいを持って働き技能を身に付けてほしいが、制度が抱える問題は残ったままだ。 依然として受け入れる目的は「技術を学ぶ実習」という位置付けだ。 「働く仲間」として認める制度への転換が必要ではないか。

制度は、海外への技術移転による国際貢献を目的として 1993 年に創設された。 建設業や製造業を中心に現在、約 25 万人が在留している。 だが、実態は安価に使える穴埋め労働者とみられ、数々の人権侵害が問題になっている。 賃金の不払いや長時間労働は事例に事欠かない。 失踪防止にパスポートを取り上げられたり、逃げ出したら母国にいる家族が多額の保証金の支払いを求められた事例もある。 国際社会からも批判を浴びている。

その改善に政府は 11 月から制度を改めた。 政府所管の外国人技能実習機構を新設、実習先への監視を強める。 罰則もある。 だが、機構の人員も限られる。 どこまで監視ができるか分からない。 そこに介護分野への拡大だ。 介護は、高齢者と日々接する仕事だ。 利用者の人柄を理解し、体の状態や気持ちをくみ取りながら生活を支える。 専門用語も飛び交う。 働くには日本語をはじめとした高いコミュニケーション能力が求められる。

だから新制度では介護職に個別の条件を設けた。 習得すべき語学レベルが設けられ、実習生には指導役も置かれる。 それでも働く仲間として介護を担う人材に育っていけるのか不安が残る。 既に介護現場では、政府間の経済連携協定 (EPA) で来日した人たちが働く。 出身国で看護師資格を持ち、手厚い日本語研修を受け、政府から育成の資金援助もある。 介護福祉士資格を取ることも要求されている。

それに比べると実習生の研修は見劣りする。 求められる語学能力の基準は低い。 結局、入浴介助などきつい作業ばかりをやる「使い捨て」人材になりかねない。 トラブルが起きないだろうか。 技能を学ぶ実習生ではなく労働者として活用すべきだとの議論は置き去りのままだ。 貴重な働き手と見なさない意識が、不当な扱いを生んでいないか。 少子高齢化を考えれば介護人材は必要だ。 ならば日本人の待遇改善が解決への本筋のはずだ。 人手不足だからと安易に外国人に頼るのはお互いの利益にならない。 (東京新聞・社説 = 11-10-17)

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技能実習生、介護業界で争奪戦 来月から制度対象 受け入れ態勢整備

外国人が働きながら技術を身に付ける技能実習制度に、11 月から介護職種が追加される。 入国は年明けになる見通しだが、深刻な人手不足を背景に実習生の採用を内定した介護事業者もあり、争奪戦は既に始まっている。 人権侵害に対する罰則が設けられたが、実効性を不安視する声もある。

費用は 1 人 75 万円

「人手不足はもっと深刻になる。 早く手を打ちましょう。」 10 月中旬、東京都内で開かれたミャンマー人実習生の送り出し機関「ミャンマーユニティ」のセミナー。 責任者の北中彰さんの説明に、関東や静岡の介護事業者の担当者ら約 20 人が真剣に聞き入った。 この送り出し機関は、日本での実習を希望するミャンマー人向けに、現地に学校を開設。 介護と日本語を 14 カ月学んだ人を日本の介護事業者に紹介する。 既に約 190 人が入校、うち約 90 人が栃木県や九州などの 16 事業者で採用が内定した。 来年 5 月の来日を目指す。

学費や渡航費など受け入れ側が負担する初期費用は 1 人当たり約 75 万円。 参加した介護施設長は「日本人の応募はなく、やっと採用してもすぐ辞めて求人広告費や紹介料が無駄になる。 実習生に投資するほうがいい。」 待遇の低さや仕事の過酷さから、介護の人手不足は深刻な状態が続く。 拍車を掛けるように、団塊の世代が全て 75 歳以上となる 2025 年には要介護認定を受ける人が 604 万人(15 年は 450 万人)に増え、約 38 万人の介護職が不足すると政府は推計する。

介護大手ニチイ学館(東京)は 1 月、受け入れ専門の部署を発足させた。 現地研修の充実や渡航後の生活相談にも対応し、来夏にはフィリピンから第 1 陣が来日予定。 初回の規模は未定だが、将来的には中国などにも対象を広げ「数百人規模に拡大したい。(広報)」 SOMPO ケアグループ(東京)は来夏、中国とベトナムから受け入れを予定。 「慎重に進めたい」とし、経済連携協定 (EPA) による人材を含め計 10 人程度の受け入れからスタートする考えだ。 同じ出身国で既に日本で働くスタッフを相談相手とし、言葉や介護技術の習得を手助けする。

中小の事業者も躍起だ。 ベトナムから受け入れ予定の北海道の社会福祉法人は約 8,000 万円をかけて寮を建設、給与も地域の相場より高くした。 「奪い合いは始まっている。 条件の良さで勝負したい。」と担当者は力説する。

人権侵害の監督強化

一方、業界内では制度に疑問の声も出ている。 ある事業者は「帰国後に介護で働く先がなければ実習生には意味がない。 人手不足の日本側にしかメリットがないのではないか。」と話す。 制度をめぐっては、農業や建設などで実習生を酷使するなどの例が相次ぎ、国連から「強制労働」と批判された。 政府は人権侵害に罰則を設け、立ち入り調査する監督機関も新設した。 しかし、外国人労働に詳しい「アジア・太平洋人権情報センター(大阪市)」の藤本伸樹研究員は「新機関の人員態勢一つとっても、本当にチェックできるか疑問だ」と指摘。 「介護の仕事はきつく、だからこそ日本人の離職率が高い。 相手の貧しさにつけ込むような形で補う制度自体に問題が残る。」と話す。 (訪日ビジネスアイ = 10-30-17)


技能実習法施行 監督強化で制度の適正化を

途上国に日本の技術や知識を伝える技能実習制度を実のあるものにするには、原点に立ち返った運用が求められる。 技能実習適正実施・実習生保護法(技能実習法)が施行された。 様々な職種の技術を身に付けるために来日する外国人実習生の保護強化や制度の拡大を図るのが主眼である。 賃金不払いなどの不正監視を強める。 優良な受け入れ先での実習期間を 3 年から 5 年に延長する。 受け入れの人数枠も広げる。

受け入れ先の不正監視の柱となるのが、新設された認可法人「外国人技能実習機構」だ。 企業などが作成する実習生ごとの実習計画をチェックし、実地検査も行う。 計画が守られていなければ、受け入れの許可取り消しもできる。 従来は、厚生労働省の委託を受けた民間機関による巡回指導だけだった。 法的権限はなかった。 実習の成果が着実に上がるよう、機構は受け入れ先をしっかりと指導・監督してもらいたい。

制度は 1993 年に国際貢献の名目で始まった。 実際には、人手不足の職種に外国人労働力を供給する手段として使われた。 実習生は低賃金で過酷な状況に置かれていると内外の批判を浴びた。 長時間労働などの違反が見つかった実習先は昨年、過去最多の約 4,000 か所に上った。 多額の賃金不払いなどの労働基準法違反で送検されたケースもある。 実習生への暴行やパスポートの取り上げなど、人権侵害も目立った。 これまでの実態を考えれば、悪質な行為に対する罰則が新法に盛り込まれたのはうなずける。

通報・相談窓口を充実させ、必要に応じて実習先を変更するといった支援を行う必要もある。 実習生は今年 6 月末時点で 25 万人を超える。 5 年前より 10 万人も増えている。 対象職種の拡大などにより、来日する実習生は今以上に増えるだろう。 対象職種には、初の対人サービスとして「介護」が追加された。 高齢化が進む途上国に日本の優れた介護技術を広げるというのが表向きの目的だが、国内の介護現場で深刻化する人手不足を補う側面があるのは間違いない。

重要なのは、サービスの質の低下を招かないことだ。 介護職場では、利用者やその家族、同僚との意思疎通が特に大切である。 特別養護老人ホームなどの受け入れ施設は、制度を安易な人材確保策とせず、実習生の育成に注力すべきだ。 日本語教育や技能研修の充実が欠かせない。 (yomiuri = 11-5-17)

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外国人技能実習 適正実施法が施行、人権侵害に罰則

外国人が働きながら技術を学ぶ外国人技能実習制度の適正実施法が 1 日に施行した。 違法な長時間労働などが相次いでおり、新設した外国人技能実習機構が受け入れ先などを監督し、技能実習計画を審査、認定する体制を整備した。 暴行や脅迫による強制といった人権侵害への罰則を設けた。 実習期間は最長 3 年から 5 年に延長し、対象職種に「介護」を追加した。

実習先の企業などは実習生ごとに技能実習計画を作成し、機構が認定すれば実習生を受け入れられる。 受け入れには企業単独の方式と、商工会や協同組合などを監理団体に指定して窓口にする方式がある。 監理団体の場合は機構の審査を経て、法相と厚生労働相の許可を得る必要がある。 法務省によると、事前の審査で法施行の 1 日時点で 292 団体が監理団体として許可を受けた。 うち介護は 5 団体。 許可を受けた監理団体は、実習生の受け入れに向けて技能実習計画の認定手続きを進める。 技能実習計画は 1 日時点で企業単独型の 20 件が認定された。

実習生の技能検定試験の合格率が高いなど、優良な監理団体や実習先は、実習期間を最長 5 年に延ばせたり、受け入れ人数を増やせたりする。 実習生は昨年末時点で約 23 万人で増え続けている。 機構が監理団体や実習先の企業などを実地検査することも定め、監督を強化する。 (nikkei = 11-1-17)

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外国人技能実習、新制度イヤ? … 事前申請が低調

来月 1 日から手続きが厳格化される新たな外国人技能実習制度を巡り、年間 10 万件以上が見込まれる実習計画の認定申請が、9 月末時点で 541 件にとどまっていることがわかった。 一方、現行制度が利用できる経過措置期間中の「駆け込み申請」が急増しており、法務省は「受け入れ側の意識改革が必要だ」と危機感を強めている。 技能実習制度では、実習生に対する賃金不払いや暴行・脅迫などの人権侵害が横行。 厚生労働省のまとめでは、2016 年に労働関係法令に違反した企業などの実習先は、全体の 7 割以上の 4,004 か所に上り、法務省の調査でも、383 件の不正行為が発覚した。

このため、手続きを厳格化して実習生の保護強化などを図る法律が昨年国会で成立し、来月 1 日に施行されることになった。 それに伴いスタートする新制度では、相手国の「送り出し機関」と連携して実習生に実習先をあっせんする「監理団体」が許可制に変更される。 個々の実習生ごとに実習先などが作成する実習計画も、これまで入国管理局に提出するだけだったのが、新設される「外国人技能実習機構(東京都港区)」の認定が義務付けられ、機構による実地検査も行われる。 (yomiuri = 10-26-17)


ニセコ地域の宿泊施設 人手不足で外国人実習生に熱視線

【倶知安、ニセコ】 ニセコ地域の宿泊施設が、外国人技能実習生に熱い視線を注いでいる。 今年の制度改正で実習生による客室整備が認められたためだ。 近年同地域では人手不足が慢性化しており、実習生を仲介する大手監理団体も相次いで説明会を開催している。 10 月 11 日、倶知安町内で開かれた公益財団法人国際人材育成機構(東京)の説明会には、別荘の管理業者など約 20 人が参加。 事務局が制度の概要や注意点を説明した。 参加者は「除雪作業をやらせてもいいのか」などと熱心に質問していた。

技能実習制度は新興国の人材育成を目的に 1993 年創設。 当初は製造業や建設業などが対象だったが、シーツ交換などの客室整備業務が今年 5 月追加された。 11 月からは期間も最長 3 年から 5 年に延長される。 同制度の建前は「技術移転による国際貢献」だが、実際には人手不足を補う労働者として実習生を受け入れている側面は否めない。 (北海道新聞 = 10-17-17)


ベトナム技能実習生 2 万 6 千人、五輪需要も弾み = 法務省 1 - 6 月統計

「日本在留のベトナム技能実習生は、2 万 6,437 人で首位。」 法務省入国管理局が 12 日にまとめた、外国人入国者の 2017 年 1 - 6 月統計で、こんな結果が分かった。 第 2 位は中国 1 万 6,863 人、次いでインドネシア 4,558 人、タイ 2,160 人、フィリピン 2,043 人と続く。 開発途上国人材に技能研修する実習生制度は今年 11 月、新法の施行で刷新される。 実習期間を 3 年から 5 年に延長する半面、適切な報酬支払いなどで企業を監視する「外国人技能実習機構」が設立される。

「(日本国内で実習生は)機械など製造業や建設、食品加工業に就く。 東京オリンピックも弾みのようだ。」 数多くの企業と実習生の橋渡し役を果たす国際研修機構 (JITCO)関係者は、指摘する。 JITCO が手掛けた実習生数は、16 年にトップの中国をベトナムが逆転し、17 年 1 - 4 月の統計でも、ベトナム人 8,303 人、中国人 6,074 人、フィリピン 1,277 人、インドネシア 1,119 人、タイ 548 人。 関係者は「カンボジアやミャンマーの研修生もいて、日本の研修職場から現地の日系企業現地法人に進むほか、母国でキャリアを積んでいる」とみている。 ただ、日本政府が求める高度専門職は、法務省統計では「研究」や「医療」の分野でみると、多くても 2 桁台の人数にとどまっている。 (jiji = 10-16-17)


密着取材、日本で学び活躍するベトナムの若者たち

株式会社MANTAN

MANTAN、ベトナム国営放送向けに番組提供 10 月 11、12 日の 2 夜連続でゴールデンタイムに放送

株式会社 MANTAN (本社 : 東京都千代田区、代表取締役社長 : 荒井健治)と株式会社シテ ィクリエイションホールディングス(本社 : 京都板橋区、代表取締役 : 指田仁)は、日本で 頑張っているベトナム人を取材したドキュメンタリー番組を制作し、その映像がベトナム国営放送「ベトナムテレビジョン (VTV)」のチャンネル 1 で放送されます。 技能実習生などに現場密着で取材し、日本で学ぶベトナムの若者たちの姿、意見を鮮明かつ率直に伝える内容をベトナム国営放送が評価し、初めてともいえる現地ゴールデンタイム で 2 夜連続の放送が実現しました。 ネットでも同時配信し、大きく改正された日本の技能実習制度、留学生の実態をベトナムと日本に紹介するタイムリーな番組放映となります。

<番組内容の一部>

技能実習生編 神奈川県川崎市で精密金型金属加工を行なっている「リード技研」という会社で技能実習生と して働いているベトナム人の 5 名の青年を密着取材し、工場で日本人の先輩から指導を受けな がら働く姿や寮での生活、プライベートの模様を撮影しています。 実際にベトナム人を受け入れ、 家族のように面倒を見ているこの会社の社長と奥様から、率直な感想や日本とベトナムの将来の思いが語られます。

また、日越友好議員連盟特別顧問の武部勤氏が技能実習生について今まで の問題点や今後についてわかりやすくインタビューに答えています。 映像を通して、ベトナムの若者がどのような思いで、決意で技能実習生として日本にきてい るのか。 明るく活き活きと楽しく過ごしている彼らの映像を通して、彼らの思いを紹介します。 (PR Times = 10-11-17)


外国人実習生の宿舎待遇策 改善規定、3 カ月で後退

外国人技能実習生の待遇改善のために国が設けた宿舎の広さ規定が、公表からわずか 3 カ月で事実上後退したことが分かった。 埼玉県川口市の鋳物業界団体の要望を受けた形。 専門家からは「実習生の権利を侵害する規定になってしまった」と疑問の声が上がっている。 技能実習適正化法の成立を受け、実習生の報酬や宿舎環境などの水準を具体的に示した国の「技能実習制度運用要領」が 4 月 7 日に公表された。

寝室の広さは、技能実習制度の支援機関「国際研修協力機構 (JITCO)」が以前から推奨する水準を踏襲し、「1 人当たり 4.5 平方メートル(約 3 畳)以上」と規定。 11 月以降は既存施設も含めこの規定を満たさなければ、実習生を受け入れられないとしていた。 しかし、川口市の「川口鋳物工業協同組合」が 3 月に新設した宿舎は「1 人当たり平均 3.1 平方メートル(約 2 畳)」しか確保できていなかった。 組合は 4 月以降、制度を所管する厚生労働、法務両省に例外を設けるよう陳情を繰り返した。

国は 7 月、旧制度から使用している宿舎については「寝室以外に私有可能なスペースを設け、合算して 4.5 平方メートル以上あれば、適切と認められる余地がある」と要領を改正した。 国側は「川口の実情を検討し、ほかでもあり得ると判断した。 基準を緩めたわけではない。」と説明している。 組合の伊藤光男理事長は本紙の取材申し込みに対し、「多忙」を理由にコメントしなかった。 ある組合幹部は「労働基準法の宿舎規定で定める 2.5 平方メートルを確保していれば問題ないと考えていた。 要領は『後出しジャンケン』だ。」と釈明。 要領の改正を受け、宿舎の外にコンテナを設置し、実質的に私有スペースを広げるなどの対策を検討している、とした。

ただ、組合関係者によると、新宿舎建設中に行われた二度の意見交換の場では、寝室の広さについて「JITCO の指導内容を満たしていない」、「今のままでは狭すぎる」などと懸念の声が出ていたという。 技能実習制度に詳しい国士舘大の鈴木江理子教授は「生活する部屋が大事であり、外にいくらスペースがあっても、仕事の疲れを癒やせる空間にはならない。 要領変更は、現存する多くの『狭い部屋』を認めることになり、中途半端になった。」と指摘した。

ベトナム人 70 人が入居拒否

川口鋳物工業協同組合の新宿舎をめぐっては、埼玉県川口市内の鋳物工場で働くベトナム人実習生約 70 人が寝室の狭さを理由に、入居を拒否する事態になっている。 実習生らは「新宿舎では健康に暮らせない」とし、全員の署名が入った要望書を 7 月 20 日付で受け入れ団体の理事長に提出。 「引っ越ししないように助けて」と訴えている。 川口市によると、実習生は現在、市産業文化会館に入居しているが、会館は老朽化で 2019 年に解体されることが決まっており、組合が鉄骨三階建ての新宿舎「川口技能実習生研修センター」を建設した。 総工費は約 4 億 5,700 万円で、市が約 2 億円を補助した。

新宿舎の寝室は平均 12.3 平方メートルで、4 人 1 部屋。 2 段ベッドが 2 つとロッカーが 4 つ置かれる。 会館の部屋に比べると、一人当たりのスペースは狭いとされ、新宿舎を視察した碇(いかり)康雄市議は「ベッド以外のスペースは、一人通るのがやっとだった」と話す。 別の受け入れ団体の中国人実習生らは既に新宿舎に入居しているが、ベトナム人実習生約 70 人は、3 月の内覧会で撮影された室内写真や図面で間取りを知り、転居に難色を示している。 30 代の実習生は「すごく狭い。 荷物や冷蔵庫を置く場所もない。」と憤った。 (藤川大樹、石井紀代美、東京新聞 = 10-9-17)

外国人技能実習制度> 1993 年から、発展途上国の人材育成を目的に始まった。 実際の現場では、外国人実習生が低賃金・長時間労働などで酷使されているとの指摘もある。 昨年 11 月に国の管理監督を強化する「技能実習適正化法」が成立。 実習生の受け入れ企業は今年 11 月以降、「技能実習制度運用要領」に従って「技能実習計画」を作成し、外国人技能実習機構の認定を受けなければならない。 実習生は昨年末現在で全国に約 23 万人。


特殊詐欺界に外国人犯罪組織の "参入" 本格化か アカウント名は「悪い奴」

裏社会で外国人犯罪組織が暗躍し、日本の犯罪組織とつながりを強めつつある。 そんな衝撃的な事実が明らかになった。 警視庁が 2 日、犯罪収益移転防止法違反の疑いで逮捕したベトナム国籍の無職男は、同胞のベトナム人を率いて銀行の預金通帳やキャッシュカードを違法に収集。 さらに特殊詐欺用の "道具" を扱う違法業者を通じ、日本人の詐欺グループに供給していたというのだ。 警視庁は 5 月にも、道具の密売グループに所属していたとされるベトナム人男女 4 人を摘発している。闇の一端を追った。

今年 2 月ごろ、埼玉県川口市の JR 西川口駅構内の現金預払機 (ATM) コーナー。 留学生として来日していた 20 代のベトナム人の男が、グエン・トゥン・ゴック容疑者 (23) と向かい合っていた。 留学生の男が、何かをグエン容疑者に譲り渡す。 するとグエン容疑者からは見返りに現金 2 万円が手渡された。 2 人がやり取りしたのは、留学生の男が自身の名義で開設した銀行通帳とキャッシュカード。 違法な口座譲渡の現場だった。 通帳とカードはその後、日本人の詐欺グループによる特殊詐欺の詐取金の振込先として使われることになった。

グエン容疑者は今月 2 日、犯罪の「道具」として使われることを知りながら通帳とカードを違法に入手したとして、警視庁組織犯罪対策 1 課に逮捕された。 組対 1 課によると、グエン容疑者が行った犯行はこの 1 回だけではない。 収集した口座やカードを「道具屋(特殊詐欺グループに詐欺用口座などを供給する違法業者)」に転売し、利ざやを稼ぐ犯行を重ねていたとみられるという。

同課は 5 月にも、同様の口座売買を繰り返していたとして、同容疑で、ベトナム人グループの男女 4 人を摘発。 このグループでは、20 代のリーダー格の男の下で、20 - 30 代のベトナム人の男女 3 人が犯罪行為を組織的に行っていた。 グエン容疑者は、このグループと連携し、犯行ノウハウの指南役も務めていたという。 「グエン容疑者らは、1 口座あたり 2 万円前後の収益を得ていた。 昨年 7 月から今年 5 月にかけて計約 1,800 口座を売買し、約 2,600 万円を売り上げていた。(捜査関係者)」

同課は、グエン容疑者らに口座を提供していた留学生や技能実習生らも摘発した。 事件により逮捕されたベトナム人は計 15 人に上る。 これほどの規模でベトナム人グループによる組織的犯行が明らかになるのは「極めて異例(捜査関係者)」という。

アカウント名は「悪い奴」

背景には "異国" に滞在する外国人同士の強固なネットワークの存在や、会員制交流サイト (SNS) の発達があるようだ。 「グエン容疑者らは平成 27 年ごろから、在日ベトナム人向けの SNS に『口座を買います』と投稿し、呼びかけに応じた同胞から口座を入手していた。 グループは SNS 内に複数のアカウントを所持。その一つは、ベトナム語で『悪い奴』を意味する『ヘクシーブイ』というアカウントだった。(捜査関係者)」

外国人が特殊詐欺事件に関与し、摘発される事例が近年、目立ち始めている。 静岡県警は今年 6 月、詐欺の疑いで、神奈川県平塚市のベトナム国籍の男 = 当時 (31) = を逮捕した。 男は 28 年、仲間と共謀し、東京都昭島市の女性 = 同 (85) = に息子を装って「お金と書類の入ったカバンをなくした」などと電話。 現金 500 万円をだまし取ったとされる。 捜査関係者によると、男はベトナム戦争後に来日した難民の 2 世で、同国国籍を持ちながら定住者として日本で生活基盤を築き、日本人の不良グループなどと交流していたという。

今年 5 月には、警視庁が観光目的と偽ってクルーズ船で来日し、詐取金を引き出す「出し子」として詐欺グループに加わっていた中国籍の男 = 同 (34) = を逮捕した。 男のグループは 2 月、大手百貨店の社員などを装って東京都板橋区の女性 = 同 (92) = に「キャッシュカードが不正に使用された」などと電話をかけ、カードを詐取。 男はこのカードを使って約 50 万円を引き出したとされる。 男は少なくとも約 30 件の詐欺事件に関与したとみられ、被害額は都内だけで約 2 千万円に上るという。

捜査関係者によると、男は留学生として来日。 建造物侵入罪を犯し、18 年に中国に強制退去させられていた。 現地で名前を変えて昨年 2 月、再来日。 グループの仲間とは中国人利用者が多い SNS 「微信(ウェイシン)」で連絡を取り合っていたという。 捜査関係者は「日本の犯罪組織と外国人を結びつける役目を、日本に足場がある外国人が果たすことが多い。 パイプ役となる外国人が SNS で同胞を犯罪に引き込む。 彼らのコミュニティーは極めて閉鎖性が強いため、実態把握は困難だ。」と危機感をにじませた。 (sankei = 10-7-17)


中国による訪日旅行制限と「福建人ネットワーク」

先週、中国当局が現地の旅行会社に訪日旅行者数を減らすよう通達を出した、という報道が流れた。 背景には中国政府が資本流出を抑制する狙いで中国人の海外旅行の規制を強めるのではないかとの懸念がある。 ここ数年の我が国の好景気は、インバウンド需要、特に中国人旅行者による「爆買い」に支えられてきた面があるので、今回の報道は関係業界の特別の注意を引いているようである。

一連の報道の発端は中国南東部の福建省発のニュースにある。 省当局は通達発出の事実はないと否定しているようだが、同省からの訪日旅行者が特に多いことから、如何にもありそうな話だと受け止められている。 中国からの技能実習生や留学生にも福建省出身者が多いと聞く。 成田・関西と厦門(アモイ)の間には深セン航空のほかに JAL・ANA それぞれの定期便が毎日満席で飛んでいる。

世界の各地に「福建会館」という福建華僑が集う場所があるが、日本にも長崎や神戸のほか、横浜の中華街に古い会館がある。 中国の他の省に関わる会館の存在は寡聞にしてあまり聞かないので、どうも福建人というのは海外華僑の中でも特別に郷土愛・団結力が強いようである。 歴史的に見た福建省と日本とのかかわりは実に古い。 紀元前、日本に稲作技術をもたらしたのは中国南東部からの渡来人ではないかという学説があるが、それはさておいても平安・鎌倉の時代に両者の間に緊密な海上交易ルートが開かれていたことは確かなことである。

古代、福建省の地域は「びん」あるいは「百越」と呼ばれていた。 春秋戦国時代に「呉越同舟」の言葉が生まれた「越」という国は現在の浙江省あたりで、福建省の北に位置したので、「びん」はさらにその南に存在した蛮族の地だったのであろう。 古代越人について記した中国の古い歴史書に「部族間の争闘を好み、髪を短くし、文身(いれずみ)をし、水田稲作民で、また河川や湖沼で漁労を営む」との記述があり、古代倭人とも遠い縁戚関係にあるように思えてくる。 (福建語の発音から派生した日本の漢音も多い。)

鎌倉時代の「元寇」という歴史的事変を調べていると福建省にまつわる興味深い話がいくつも出てくる。 「弘安の役」と呼ばれる二度目の侵攻(1281 年)では高麗兵に代わって海戦に慣れた江南軍(約 10 万人)が主力になり、軍船の大半も粗末な高麗船ではなく泉州(福建省)で建造された頑丈なものに入れ替わったという。

しかし、折からの台風の害もあって大敗すると、数千(数万という説あり)の捕虜が日本側に捉えられて殺害されている。 モンゴル人、高麗人、漢人(華北人)はことごとく斬られたが、どういう訳か江南兵(浙江・福建両省出身者)だけは助命されている。 彼らは元によって滅ぼされた旧・南宋人であり、交易によって日本と深いつながりを持ち、技術者が多かったことがその理由とされている。 「友人知己は殺さず」ということだったのかも知れない。

時代がさらに下って室町時代になると中国の「明」の南東部沿岸を倭寇が襲うようになるが、海洋交易を生業とする福建人が明朝の鎖国政策を嫌って海賊化し、密貿易を行って倭寇と一体化するという珍現象が起こっている。 これらの福建人は月代(さかやき)を剃って日本人になりすまし、倭寇の体(てい)を装って海賊行為を働いたという。 当時の倭寇の 8 - 9 割は中国人自身によるものである。 江戸時代の初期、平戸を根城にした鄭芝龍という海賊の頭目は日本人女性と結婚して、明末清初期の英雄・鄭成功を生んでいる。 福建省と日本のかかわりは実に深い。

古代において福建省一帯が「百越」と呼ばれていたことは先に触れたが、実は、ベトナム人の多くが「自分たちは百越の末裔」と言っており、「ベトナム(越南)」という国名がその証のようになっている。 「百越」とはインドシナ諸族の一派と言ってよい。 「部族間の争闘を好み」という越人の特徴はベトナムの歴史にぴったり当てはまる。 今日、そのベトナムが日本と格別の縁で結ばれていることは興味深い。 ベトナム中部のホイアンなどには立派な福建会館があり、16 - 17 世紀に多くの福建商人が移り住んだことが知られているが、明末清初のこの時代にはさらに多くの福建人が台湾に移住している。 台湾で「内省人」と呼ばれている漢族のほとんどが福建人である。

今日、台湾やベトナムといった国・地域と強固な親日・友好のネットワークが出来ている背景には福建人の存在があると言えなくもない。 同省からの技能実習生や留学生はもとより、多くの観光客にぜひ訪日してほしいと願う次第である。 (坂場三男、日本戦略研究フォーラム = 9-25-17)

坂場三男 (さかばみつお)略歴 : 1949 (昭和 24)年、茨城県生れ。 1973 年横浜市立大学文理学部文科卒業。 同年外務省入省。 フランス、ベルギー、インド、エジプト、米国(シカゴ)等に勤務。 外務本省において総括審議官、中南米局長、外務報道官を務める。 2008 年、ベトナム国駐箚特命全権大使、2010 年、イラク復興支援等調整担当特命全権大使(外務本省)、2012 年、ベルギー国駐箚特命全権大使・NATO 日本政府代表を歴任。 2014 年 9 月、外務省退官。

2015 - 17 年、横浜市立大学特別契約教授。 現在、JFSS 顧問、MS 国際コンサルティング事務所代表として民間企業・研究機関等の国際活動を支援。 また、複数の東証一部上場企業の社外取締役・顧問を務める。 2017 年 1 月、法務省公安審査委員会委員に就任。 著書に『大使が見た世界一親日な国 ベトナムの素顔(宝島社)』等がある。