取扱額 8 兆円! 「独身の日」セールでアクセス急増、Alibaba が取り組む "サイトが落ちない" 工夫とは?

中国では毎年 11 月 11 日の「独身の日」に合わせて、ネット通販業者が大セールを開催するのが通例となっている。 中国 EC 業界の "巨人" である Alibaba Group も、独身の日に大規模なセールを実施し、毎年すさまじい額の売り上げを記録している。 2020 年の取扱額は約 7.9 兆円に上ったという。 ただそれだけ取引があるということは、消費者からの EC サイトへのアクセス数、そしてサーバへの負担がかなりの規模になることを意味する。 そこで Alibaba Group は、自社のパブリッククラウドサービスである Alibaba Cloud を EC サイトの基盤に採用。 独身の日にリソースを拡張して大量のアクセスをさばき、サーバのダウンを防いでいる。 同社はこのほど日本向けに記者説明会を開き、Alibaba Cloud などを活用した独身の日への対応策を説明した。

ピーク時の注文数は毎秒 58 万 3,000 件

Alibaba Group は今回、11 月 1 日 - 3 日と、11 月 11 日の 2 回に分けてセールを開催。 期間中の取扱額は約 7.9 兆円、ピーク時の注文数は毎秒 58 万 3,000 件に達した。 10 年前に比べると流通総額は約 530 倍、ピーク注文数は約 583 倍に増えたという。 「これほどの大量アクセスを遅滞なく、そしてシステムを停止させることなく処理することは、一般的なネット通販の仕組みでは不可能。 特別なアーキテクチャを考える必要があった。」と、日本法人であるアリババクラウド・ジャパンサービスの奥山朋氏(インターナショナル ソリューション アーキテクト)は説明する。

そこで Alibaba Cloud が採用しているのが、独自開発した分散リレーショナルデータベース「PolarDB」とデータウェアハウス「AnalyticDB」だ。 どちらもクラウドシステムで性能を発揮させるために、スケールアウトで性能を伸ばせるアーキテクチャを採用している。 スケールアウトとは、大量の処理を複数のサーバで分散処理して全体の性能を向上させる手法だ。 同じようなアクセスが大量にやって来る Web サーバなどで利用することが多い。

Alibaba Cloud を活用して処理を効率化 20 年はコンテナ活用に注力

Alibaba Cloud は 19 年のセールから、EC サイトのシステムを 100% クラウドで構築・運用しているが、20 年のセールに向けてはコンテナの活用に注力。 クラウドで運用しているシステムのうち 80% をコンテナで稼働させたという。 具体的には、Alibaba Cloud のベアメタルサーバ「X-Dragon」を採用し、その上にコンテナサービス「Alibaba Cloud Container Service for Kubernetes (ACK)」を実装。 その結果、ユーザーからのアクセス数に応じて、コンテナの数をどんどん増やすことに成功し、ピーク時には 1 時間に 100 万コンテナまでスケールアウトできたという。

こうした工夫の結果、20 年のセールでは、PolarDB は最速で毎秒 1 億 4,000 万クエリを処理した。 19 年に比べて 60% の高速化を果たした計算になる。 AnalyticDB は、行が 7.7 兆に上るデータをリアルタイムでさばき、処理時間をミリ秒単位まで短縮できたという。

AI やロボットも活用

Alibaba Group は今回のセールにおいてアーキテクチャを工夫しただけでなく、AI なども活用し、出店者を支援するサービスを充実させた。 奥山氏が挙げた具体例は 2 つ。 1 つ目の「バーチャルキャスターサービス」は、EC サイト上にアニメキャラのようなアバターを登場させ、商品を紹介してもらうというもの。 アバターは視聴者から商品に関する質問を受けると、その内容を認識し、文字によるチャットや音声で適切な答えを返すことができる。

2 つ目は、AI によるライブストリーミングの自動翻訳だ。 今回のセールでは、出店者が商品を紹介するライブストリーミングを行い、その内容を AI にリアルタイムで解析・翻訳させ、字幕として表示した。 出店者が中国語で商品説明をしていても、ユーザーの希望する言語で字幕を表示できる。 言語の壁をなくし、海外ユーザーの利用を促進できるメリットがあり、「出店者の 70% がこのサービスを活用した(奥山氏)」という。

Alibaba Group は今回のセールで、クラウド・AI に加え、ロボットを使って商品を配送する取り組みも実施。 中国の杭州市にある浙江大学のキャンパス内での限定的な運用だが、クラウド/エッジの両方で AI に対応した配送ロボットを導入した。 具体的には、ロボットがクラウド上の AI が算出した最適経路を受信しつつ、搭載するエッジ AI で障害物や歩行者などを回避しながら商品を配送した。 このロボットは 1 回の充電でおよそ 100km 走行し、1 日当たり 500 個以上の荷物を届けることができるという。

配送に使用したロボット

奥山氏は「この配送ロボットを導入したことによって、今回のセールで配送時間の短縮と配送コストの削減を実現できた」と強調した。 Alibaba Group は今後、ライブストリーミングで使用した自動翻訳などの AI 技術をマネージドサービスとして提供するなど、セールを支えた技術を早くも外販する計画だ。 独身の日の大規模セールを裏で支える同社のテクノロジーは、今後どんな進化を遂げるのか。 売り上げだけでなく技術的な観点からも、早くも来年のセールが楽しみだ。 (笹田仁、ITmedia = 12-2-20)



中国の偽造品対策が「不幸を招く」理由

[北京] プラダのバッグのコピー品や米アップルストアの偽店舗、果ては人工の卵まで、偽造品を作り出す中国の能力はもはや伝説的と言っていいだろう。 欧米の関税当局が没収した偽造品は、その約 4 分の 3 が中国製だ。 中国政府は、電子商取引大手アリババに偽造品対策強化を要請するなど、こうした問題に表向きは取り組んでいるように見える。 しかし問題は、偽造品を作る動機が単純ではないところにある。 偽造行為は革新や信用を損ねる一方で、偽造品のない中国が誰にとっても良い世界だとは言い切れない。

古典である「書経」にも偽造された部分がひそかに付け加えられるなど、中国は少なくとも 3 世紀から偽造品に悩まされてきた。 そして現在、電子商取引(eコマース)がそれに新たな側面と、ある種の解決策を与えている。

偽造品の追跡はかつて、無秩序に広がったサプライチェーンに入り込むことを意味していた。 しかしアリババ傘下のネットモール「淘宝(タオバオ)」は、中国のオンライン消費活動の約 85% を占めるまでになり、偽造品の集積所にもなった。 英高級ブランド「ジミー・チュウ」の靴を検索すれば、中国各地のサプライヤーから 50 ドル未満の靴が数百件も表示される。 本物なら通常、値段はその 10 倍以上だ。>/p>

偽造の防止自体はそれほど難しい話ではない。 第一にそれは生来の革新性を奨励することになる。 消費者が手にしているのが本物だと分かれば、小売価格は上昇し、無駄な消費は減るだろう。 官僚主義を改めると中国政府が宣言したことで、役人たちも自分たちが役に立つ新たな理由を見つけたようだ。 中国国家工商行政管理総局 (SAIC) などは先月、アリババの管理不行き届きが原因で、同社プラットフォーム上で偽造品が横行していると批判する報告書をまとめている。

一方、アリババは全社員の約 10% に相当する 2,000 人が偽造品防止に従事していると主張。 しかし、850 万人の販売者と 10 億以上の商品を扱うサイトを有する同社にとって、十分な対策とはとても言えないだろう。 それに社員たちは偽造品のチェックだけをしているわけにはいかない。 オンライン化粧品小売会社の聚美優品は、クリームなどが本物か調べるために化学分析を使用しているが、靴ではそのように調べられない。 それに中国で偽造されたハンドバッグや服は海外からもよく買われている。

タオバオは偽造品を「がん」と呼び、根絶すると誓っているが、その成功の代償は高くつくだろう。 偽造品をなくすには、さらに多くの人件費がかかる。 また、同社のビジネスモデルは、検索キーワード連動型広告で利益を上げる方法に依存している。 SAIC は抽出したサンプル商品の 92% が偽造品、もしくは品質が不十分であったとしている。 あまりに単純な調査方法だが、ほんの数 % でも検索連動型広告の入札者が減れば、広告収入を直撃し、現在 36% を誇るアリババの営業利益率を圧迫しかねない。

さらに労力を費やして用心したとしても、タオバオは偽造品業者たちに隠れみのを提供するだろう。 同サイト上では、買い手と売り手がメッセージサービスで直接やりとりでき、偽造品を陰で販売するのを可能にしている。 ライバルの電子商取引サイト、京東 (JD.com) とは違い、倉庫を持たないアリババは自社サイトで販売される商品を監視する能力に限度がある。 タオバオを利用する販売者はブランド自体の会社というよりも、中間業者である傾向が強い。

アリババの投資家にとっては幸いなことは、少なくとも買い手の健康を危険にさらさない限り、オンラインでの偽造品対策を中国政府が躊躇するかもしれないことだ。 その理由は 2 つある。 1 つ目は、怪しい売り手を販売サイトから締め出すことは、実際のサプライヤーの特定をより困難にする。 さらに重要なのは、雇用が危機的状況に陥る恐れがある。 10 年以上も前から、都市部労働人口の 30% 近くが製造業で働いている。 偽造品は、低コスト商品の大量生産に基づく経済の必然的な結果だと言える。

時と共に製造業の規模が縮小するにつれ、偽造品を作る機会や動機も減退していくだろう。 少なくとも、偽造品の製造は他の比較的貧しい国々に移行していくはずだ。 とはいえ、偽造品製造に取って代わるほど十分な雇用がサービスや消費主導型産業で生まれなければ、そのような移行はスムーズには行われない。 中国はまだその準備が整っていない。 それが、規制当局がアリババを厳しく罰しないと期待する最大の理由かもしれない。 雇用創出が弱く、賃金も伸び悩むなか、活発な偽造品の取引を防止するというのは「こけおどし」なのだ。 (Reuters = 2-12-15)


中国当局、アリババに偽造品対策強化を要請 「品質は生命線」

[上海/北京] 中国の製品品質監督当局、国家質量監督検験検疫総局 (AQSIQ) の支樹平局長は、電子商取引大手のアリババ・グループ・ホールディング が製品の品質により配慮し、同社サイトでの偽造品販売防止策を強化すべきとの見解を示した。 この問題をめぐっては、中国国家工商行政管理総局 (SAIC) が 1 月、アリババの管理不行き届きが原因で同社プラットフォーム上で偽造品や違法ビジネス、贈賄が横行していると批判する報告書をまとめている。

AQSIQ が 10 日発表した声明によると、支局長は会議で「品質は電子商取引の健全な発展の生命線である。 中国ビジネス、中国製の製品のイメージについて、アリババは世界をリードする電子商取引ブランドとして、より真剣に取り組み、品質をより重視し、品質が自社の生命線とみなし、良いイメージを構築し、多大な貢献をすべきである」と述べた。 その上で、アリババがこの問題に各方面の協力を求めて取り組んでいることを評価した、としている。 (Reuters = 2-11-15)


危険・違法な中国製玩具の輸出防止、アリババが米側と合意

[香港] 中国電子商取引大手のアリババは、危険性や違法性が指摘される中国製玩具の米国への輸出を防ぐ措置をとることで、米国消費者製品安全委員会 (CPSC) と合意した。 CPSC が 13 日、明らかにした。 アリババが輸出を防ぐことで合意したのは最大 15 種類の玩具。 CPSC のエリオット・ケイ議長によると、CPSC が外国企業とこうした合意を取り交わすのが今回が初めて。 ただ、今回の合意は拘束力は持たない。

合意の下、CPSC はアリババに対し米国への輸出を控えるよう要請する 5 - 15 種類の子供用玩具の一覧表を提供する。 アリババ幹部のジム・ウィルキンソン氏は声明で、「アリババは CPSC、およびケイ議長と協力して消費者保護に努める」との姿勢を示した。 CPSC によると、米国が輸入する玩具の約 90% が中国製。 中国の電子商取引市場でアリババは約 80% のシェアを占めている。 ケイ議長によると、CPSC は中国電子商取引第 2 位の京東商城(JD ドット・コム)やその他の外国の電子商取引大手に同様の措置をとるよう要請はしていないが、近く打診する可能性があるとしている。 (Reuters = 1-14-15)


アリババが仕掛けた「中国最大オンラインショッピングの日」

「1」は独身者に見える?

中国で 11 月 11 日は「光棍節(グァングンジェ)」といい、海外のブラックフライデー(11 月の第 4 金曜日)、サイバーマンデー(ブラックフライデーの翌週の月曜日)などに並ぶ、ショッピングの日です。 数字の 1 がパートナーのいない独身者(光棍)に見え、1 ばかり 4 つも並んでいることから、中国大陸の若者同士の間でシングルデーの意味「光棍節」と言われたのが始まりです。 中国大陸では、11 月 11 日前後にお見合いパーティなどの恋人探しを目的としたイベントが、各地で開催されています。

このシングルデーがショッピング(特にネット通販)の日になったのは、中国の最大電子商取引企業アリババグループが約 5 年前、傘下の EC サイトであるタオバオ(淘宝、天猫モールを含める)を通じて、独身者のための大々的な割引セールを実施したことが始まり。 それが今では中国最大のショッピングの日になりました。 11 月 11 日のこの割引セールは、独身の人々が自分のために贈り物を送るという趣旨のもとに始まったと言われています。

アリババの魅力とは

11 月 11 日をシングルデーから "中国最大のショッピングの日" に発展させたアリババ。 そのアリババの魅力は、一体何なのでしょうか。 最も大きいものとして、同社の電子決済サービスであるアリペイ(支付宝)を含めたインスタントメッセンジャーを利用した小額決済など、便利な支払いサービスの提供が挙げられます。 また、中国ならではの価格競争力はもちろん、幅広い商品を販売していることも魅力の一つとして挙げられます。

2013 年、光棍節の 1 日でアリババグループは 350 億中国元(約 6,600 億円)の売上高を、今年は過去最高となる 571 億元(約 1 兆 800 億円)の売上高を記録し、売上を毎年更新する勢いを見せています。 ちなみに、日本のユニクロは 2014 年度の光棍節、天猫モール内レディースファッション分野において、販売高 2 位にランクインしています。 (金慈允 = アウン台湾マーケティング、Cnet = 11-26-14)


中国アリババ、恒例のセールで取引額が過去最高更新

[杭州] 中国の電子商取引大手アリババ・グループ・ホールディングは、ネット通販各社が展開する 11 月 11 日の「光棍節(シングルズデー)」割引セールで、開始から 15 時間で 390 億元(64 億ドル)相当の商品を販売したことを明らかにした。 2013 年のシングルズデーの取引額である 350 億元を超え、過去最高を更新した。 IT 専門調査会社 IDC は、今年の総取引額が 86 億 2,000 万ドルに達すると予想している。 アリババによると、セール開始から 18 分間で取引額は 10 億ドルとなっていた。

シングルズデーのセールは 2009 年、27 社がアリババのオンライン商店街「天猫(T モール)」で売上高押し上げに向けた大幅な値引き商戦を開始したのが始まり。 今年は 2 万 7,000 社が参加。 出店業者の中には 10 月 15 日にすでにシングルズデーの値引きについて宣伝し、事前に代金の一部を受け取り、当日に全額の決済処理を行った企業もあり、こういった取り組みが売上高を押し上げている。 アリババは、今年は世界 200 カ国以上から買い物ができるようになったとしている。

一方、競合する京東商城(JD ドット・コム)はツイッター上で、シングルズデーのセール開始後 10 時間の受注が前年比で 2 倍以上になったと公表した。 中国の新興スマートフォン(スマホ)メーカー、小米科技(シャオミ)もシングルズデーのセールを実施しており、この日の売上高がこれまでのところ 12 億元以上、スマホの販売台数は 85 万 3,000 台以上になったと、中国版ツイッターの微博(ウェイボー)で発信した。 (Reuters = 11-11-14)


アリババ上場と中国経済減速の深い関係

中国の電子商取引会社アリババ・グループ・ホールディングが途方もない高値での上場を果たした折も折、同社を育んだ中国の高成長経済が「がた」のきた中年期への移行に満足しているように見えることは、果たして、(1) 滑稽、(2) 心配、(3) 関係ない - - のどれなのだろうか。 アリババの上場に金を投じた投資家の大半は気付いていないようだが、中国は本当に変身しつつある。 成長が鈍化しても支援に乗り出さず、より慎重かつ受動的な姿勢に転じている。 最近発表された鉱工業生産統計は 2008 年以来で最悪の数字となり、景気が明らかに減速していることを示した。

楼継偉・財政相は 21 日、「中国は単一の経済指標の変化に応じて大規模な政策調整を行うことはしない」と述べ、公的支出頼みでインフラ投資を加速させることはできないと付け加えた。 これはどう考えてもアリババ株を買った投資家に疑問を提示している。 アリババを支持した投資家らは次のような論戦を張るだろう。 つまり「中国経済はまだ好調だ。 少なくとも相対的には。」として景気減速そのものを否定するか、「アリババは中国経済とは無関係に成長できる。」と言って景気減速は問題ないと主張するかだ。 しかし当然のことながら、金融市場が正しいとは限らない。 市場には不確実性も反映されているのだから。

懐疑的な見方をする投資家はこれまでのところ、アリババの外部ステークホルダーが直面し得る 2 つの弱みに注目してきた。 1 つ目はコーポレートガバナンス(企業統治)の問題に集約でき、2 つ目は政治だ。 アリババの馬雲(ジャック・マー)会長は自らの価値基準における株主の順位について、顧客、従業員に次ぐ第 3 位だと率直に述べている。 これは良い戦略かもしれないが、投資家にとってより不利なのは、経営陣を外部圧力から実質的に隔絶する企業構造だ。

新規株式公開 (IPO) を果たしたのがケイマン諸島を登記地とする持ち株会社であり、この会社がアリババの利益を得る権利は契約で決まっているだけという事実、そしてこうした契約には中国の法律をめぐる不透明感が付きまとうという事実を考え併せてみよう。

すると政治的な視点が浮かび上がる。 つまり中国企業は、いかにグローバルに有名な企業であっても、権力者のお気に召さなければ事業展開できないということだ。 法律もその執行方法も変わり得る。 馬氏が中国一の大富豪であり、明らかな影響力を有していることは明るい側面だが、暗い側面もまた、彼が中国一の大富豪だという事実にある。

成長織り込みに危うさ

確かにアリババは米アマゾン・ドット・コムと異なり在庫をほとんど持っていないため、資本効率が素晴らしく、利ざやは極めて厚い。 こうした利ざやは経済成長率に左右されないが、投資家が付けるバリュエーションは成長率次第で変わる。 現在のバリュエーションは一言で言って巨大だ。 非常に高いバリュエーションは、1 つには将来の成長を織り込むことで導き出される。 特にアリババが支配する中国の電子商取引産業においてはそうだ。

そこにはおなじみのストーリーがある。 すなわち中国は立派な小売りインフラを欠いているため、電子商取引が市場シェアを獲得している。 その上、中国当局自体が国内消費主導型へと経済構造の転換を図っていると。 いずれもその通りだ。 しかし同様に着目すべきは、アリババが繁栄を築き、繁栄を許された理由の 1 つが、輸出と投資から消費へという移行を同社が加速させたことである点だ。

問題は、アリババの成長が一部、中国経済自体の成長に基づいて予想されていることであり、市場はそれをなかなか認識できないかもしれない。 中国の今年の成長率は 7% 程度と、先進国の基準で測れば高成長を遂げるのは間違いないが、この水準は当初予想や最近の実績に比べると相当低い。 鉱工業生産統計を見ると、コンクリート、鉄鋼、不動産といった投資主導セクターが急速に鈍化していることが分かる。 これらの事実はエネルギー生産と消費の統計によっても裏付けられる。 中国の成長率はみるみる減速しているし、最近の当局者の発言を踏まえれば、彼らはそれについて大した対策を打つ気がない。

景気減速と、それに対するおうような構えが大きなサプライズであることは、強調しておかねばならない。 私の見るところ、アリババの IPO 株を売買する投資家はこの 2 つのサプライズにあまり重きを置いていないようだ。 中国経済が減速しており、当局者にそれをテコ入れする気がないとすれば、アリババはこれまで経験したことのない環境での事業展開を迫られるかもしれない。 アリババ株の投資家は、将来の成長に基づく高い株価バリュエーションが、あらゆる種類のレバレッジに酷似していることに気付くかもしれない。 成長をめぐる前提が少し変わるだけで大きなインパクトがもたらされるということに。 (James Saft、Reuters = 9-24-14)


中国の消費者は祝福も疎外感、アリババ米国上場

【北京】 中国の電子商取引最大手、阿里巴巴集団(アリババグループ)がニューヨークでの新規株式公開 (IPO) に向けて動くなか、中国ではアリババの創業者で会長の馬雲(ジャック・マー)氏が中国本土から移住するかどうかに関心が集まった。 馬氏は移住のうわさを否定したが、こうしたうわさがたつこと自体、アリババの成功をめぐって相反する感情が中国国内にあることを物語っている。

「どこであっても他の場所への移住を考えたことは一度もない - -。」 馬氏は今週、中国版ツィッター「新浪微博(ウェイボ)」の自身のアカウント上でこう述べた。 馬氏が香港の永住権取得を申請するとの根強いうわさがあるだめだ。 英国の植民地だった香港は今では中国の一部だが、報道の自由や移動の自由を認める法律があり、投資規制もほとんどない。

19 日のニューヨーク証券取引所上場に先立ち、アリババが IPO で 218 億ドル(約 2 兆 3,700 億円)を調達することがわかると、中国でも多くの人が祝福した。 馬氏がアパートの一室で同社を立ち上げ、世界最大規模の電子商取引企業に育て上げたことは有名な話だ。 馬氏は政府からは最低限の支援を受けただけで成功し、中国でインターネットブームが始まったころにライバルだった米イーベイに勝利した。

しかし、アリババが海外の市場に上場したため、中国にはチャンスを逃したという思いもある。 創業当初、米国のヤフーや日本のソフトバンクから多額の資金を調達したアリババが今でも海外で資金調達を続けることについて疑問の声も上がっている。 中国の企業が海外で資金調達を続ければ、中国の企業育成能力に疑問符が付くからだ。 同国最大になったかもしれない株式上場を逃したことを嘆く声も聞かれる。

北京のビジネススクール、長江商学院の滕斌聖准教授は「多くの中国人がアリババの成功を誇りに思っていたとしても、IPO をめぐる報道でいくつかの欠陥が露呈した。 それは中国の投資家がこの祝宴に容易には参加できないということだ。」と述べた。 中国で最も成功した企業が海外で上場したことで、国民が多少の無力感を覚えるのは避けられないという。

うわさされている馬氏の移住計画をめぐる議論は IPO を前に激しさを増し、中国では多くの人が国内の問題に改めて不安を感じ始めた。 大成功を収めた中国人の間では移住熱が再び高まっている。 中国では人材や資本の流出が懸念されている。 最近の調査によると、公害や汚職の横行、貧富の差の拡大から逃れるために富裕層の間で移住を考える人が増えている。

馬氏の移住のうわさに関連して、ウェイボのある利用者は今週、「資本には流動性があり、最高の場所に流れるのは当然だ。 中国の役人や大物を見ると、優れた資質を持った人々はみんな、海外に移住している。 そしてわれわれはどこが良い場所なのかを知っている。」と書き込んだ。 「中国本土の状況を改善することに対して代償を支払いたがらない有能な人々があまりに多い。」

一方、学者や証券業界の幹部はアリババの IPO に乗じて中国の企業や証券に関する規則を批判している。 中国の規則は時代遅れで、多様な資金需要をもつベンチャー企業にはふさわしくないと主張している。 こうした専門家によると、アリババのニューヨーク上場は上海と深センの証券取引所にとって傷口に塩を塗られるようなものだという。 中国の主要インターネット企業は中国本土の証券取引所への上場を回避し、騰訊控股(テンセントホールディングス)は香港で、百度と新浪はニューヨークで上場した。

対外経済貿易大学(北京)のハン・キ教授は 18 日付けの英字紙チャイナ・デイリーに掲載された意見記事の中で、「(上海と深センの)A 株市場の管理者がそれほど市場に詳しくないことを考えると、馬氏が IPO に上海や深センを選ばなかったことは驚くに値しない」と書いている。 「アリババのニューヨーク上場は中国の株式市場がもはや同国の経済成長の要求を満たすにふさわしいものではないことを示しているようだ」という。

インターネットや電子商取引の分野を専門とする投資顧問会社 BDA チャイナのダンカン・クラーク会長は、投資家がアリババという中国の「象徴的な企業」を中国の市場で取引できないことは興味深いと述べた。 また、「中国で同社のサービスを利用したり楽しんだりしてきたのに海外で株主になれない人々は当然、腹立たしく思う」と指摘した。

国営の新華社通信は国内の投資家が創業当時のアリババを支援できなかった理由についての記事を配信した。 記事は業界の専門家の言葉を引用して、中国のベンチャーキャピタル業界は成熟していないと指摘した。 この記事によると、中国では近年、新しいタイプのインターネット企業が増えており、それに伴ってベンチャーキャピタルが急増しているが、国内投資家のベンチャーキャピタルへの出資額は不動産への投資額のほんの何分の一かにすぎないという。

しかし、馬氏を支持する人たちにとって、こうした論争も中国最高の起業家の 1 人が達成した偉業であることに変わりはない。 中国のソーシャルメディア上では、多くのユーザーが興奮し、馬氏を祝福した。 深センにあるアパレル会社の関係者は「アリババの上場は中国の景気動向に影響を与えただけでなく、われわれのような中小企業の発展を後押しした」、「ジャック・マーさん、ありがとう」と書き込んだ。

アリババの IPO は社会の進化の表れとみる人もいる。 人気のポータルサイト「新浪」の金融コラムニストのチェン・シジン氏は今週、論説記事の中で、馬氏が不動産以外の事業で富を築き、中国一の富豪になることを歓迎した。 同氏は「このことは中国の社会にとって大きな一歩だ」と指摘、「不動産業界のメンタリティーは『所有』で、時代遅れの考え方として衰退しつつある。 インターネット業界のメンタリティーは『共有』で、新しく進歩的な考え方だ」と述べた。 (Te-Ping Chen、The Wall Street Journal = 9-20-14)


アリババ株上昇、時価総額はトヨタ超える 25 兆円に

中国のインターネット通販最大手アリババグループは 19 日、ニューヨーク証券取引所に上場し、公募価格(1 株 68 ドル)を 38% 上回る 93.89 ドルで初日の取引を終えた。 アリババが調達する資金は最大 250 億ドル(約 2 兆 7,200 億円)にのぼり、上場時の調達額として世界最大になる見通し。 米国など海外での事業を強化していくとみられる。

この日の終値をもとに、アリババの企業価値を示す株式時価総額を算出すると、約 2,310 億ドル(約 25 兆円)となり、日本でトップのトヨタ自動車(約 22 兆円)を超える。 アリババと同業の米アマゾン(約 1,500 億ドル)や米フェイスブック(約 2 千億ドル)も上回った。 (asahi = 9-20-14)


米メディア、アリババ一色 19 日、過去最大の上場  1 株 68 ドル

中国のインターネット通販最大手アリババグループは 19 日、ニューヨーク証券取引所に株式を上場する。 上場により調達する金額は最大 250 億ドル(約 2 兆 7,200 億円)に達し、世界最大になる見通しだ。 アリババは 18 日、公募価格を 1 株 68 ドル(約 7,400 円)に決めたと発表した。 これまで公表していた公募価格の目安(66 - 68 ドル)の上限となり、投資家からの人気が高いことをうかがわせた。 米メディアも「フェイスブックに続く大型の新人がデビューする」などとアリババ一色だ。

アリババ上場はすべてが規格外だ。 米株式市場では、2008 年に上場したカード大手ビザが調達した約 197 億ドルが過去最大だったが、アリババはこれを超える見通しだ。 世界の株式市場では 10 年に上場した中国農業銀行の約 221 億ドルが最大で、この記録も上回る公算が大きい。 (ニューヨーク = 畑中徹、asahi = 9-19-14)


中国アリババ、IPO で最大 211 億ドル調達へ

[ニューヨーク] 中国の電子商取引大手アリババ・グループ・ホールディングは、新規株式公開 (IPO) の仮条件レンジを 1 米国預託株式 (ADS) 当たり 60 - 66 ドルに設定する見込みだ。 米証券取引委員会 (SEC) への提出書類で明らかにした。 調達額は最大約 211 億ドルになる見通しで、米国市場に上場するテクノロジー企業としては過去最大となる。

アリババは、今後数日に開催するロードショーを経て、最終的な IPO 価格を決定する。 アリババは ADS 3 億 2,010 万株のうち、1 億 2,310 万株を売却する。 仮条件レンジの上限におけるアリババの企業価値は 1,626 億 9,000 万ドル。 一部のアナリストは約 2,000 億ドルに達するとの見方を示していたが、これには届かなかった。 関係筋によると、同社は 8 日の週に上場を予定している。 (Reuters = 9-6-14)


中国アリババ、米で上場申請 資金調達額、FB に匹敵か

中国のネット通販最大手、アリババグループは 6 日、新規の株式公開(上場)を米証券取引委員会 (SEC) に申請した。 資金調達金額は 10 億ドル(約 1,020 億円)としているが、引き上げられる可能性が高く、上場時には 2012 年に 160 億ドル(約 1 兆 6,200 億円)を調達した米フェイスブックに匹敵する規模になるとみられている。

この日、SEC に届けた調達金額は上場にかかる費用を計算する目的などで、まず 10 億ドルと設定した。 詳細は実際に上場する直前に示されるが、大幅に引き上げる可能性が高いとみられ、市場関係者は 200 億ドル(約 2 兆円)を超える可能性もありそうだと指摘している。 上場先は、ニューヨーク証券取引所かナスダック市場で検討されている。

アリババは 1999 年、元英語教師の馬雲(ジャック・マー)氏が創業。 通販サイトの流通総額は 12 年で 1.1 兆元(約 18 兆円)にのぼり、米国のアマゾンや日本の楽天を大きく上回る。 SEC への申請資料によると、アリババにはソフトバンクが 34.4% を出資し、筆頭株主となっている。 米国のヤフーも 22.6% を出資している。 アリババの上場は、大型買収を繰り返すソフトバンクや経営再建をめざすヤフーにとっても、財務基盤の安定など重要な意味を持つ。 (ニューヨーク = 畑中徹、asahi = 5-7-14)


アリババ IPO は中国経済の転換点 - 重工業からハイテク中心へ

中国の電子商取引会社アリババ・グループ・ホールディングは米国での新規株式公開 (IPO) 申請に向けた準備を進めている。 この動きは中国経済の発展を端的に反映している。 アリババの馬雲(ジャック・マ)会長のような経営者が掲げるハイテク社会のビジョンが、かつて毛沢東が抱いた中国工業化の夢に取って代わっている。

米国や韓国に対抗する世界的なハイテク大国を目指す中国は、転換点を迎えている。 華為技術や小米 などの企業の台頭を受け、電子機器業界は昨年初めて鉄鋼業界を抜き、売上高で首位となった。 果物からフォークリフトに至るまであらゆる商品の売り手と買い手を結ぶ電子商取引を行うアリババは、変革のシンボルとなる最新の事例だ。

政府の政策や消費者の需要を受け、中国は鉄鋼やセメントなど国家主導の重工業から、需要・市場主導の電子機器やサービス産業に軸足を移している。 テクノロジーの進歩は、中国が経済成長を維持し生活水準を改善する上で必要な賃金や雇用の増加や生産性向上を後押しする可能性がある。

世界銀行のシニアエコノミスト、カーリス・スミッツ氏(北京在勤)は、中国が「産業構造を調整していることを示しているため、これは重要だ」と指摘した。 中国国家統計局によると、2013 年の電子機器の売上高は 7 兆 7,000 億元(約 125 兆 6,000 億円)と、鉄鋼製錬の 7 兆 6,000 億元を上回った。 12 年は電子機器の売上高は 6 兆 9,000 億元と、鉄鋼の 7 兆元を下回っていた。 (Bloomberg = 4-28-14)


中国アリババ、米で上場へ 調達額はFBに匹敵か

中国のネット通販最大手、アリババグループは 16 日、米国の株式市場での株式上場準備を始めたと発表した。 年内にも申請すると見られる。 伸び盛りの中国ネット通販市場で圧倒的なシェアを持つ同社の上場による調達額は、フェイスブックなどに匹敵する規模となる可能性がある。

上場時期を含めて詳細は未定だが、中国メディアは「上場で時価総額は 1 千億ドル(約 10 兆円)に達し、調達額は 150 億ドル(約 1.5 兆円)を超えて過去最大規模となる可能性がある」と報じる。 同じネット業界のフェイスブックが 2012 年に調達した際の 184 億ドルや、10 年に自動車大手ゼネラル・モーターズ (GM) が再上場した 231 億ドルに匹敵する規模がうわさされる。

調達した資金は、現在も活発に繰り返している買収資金などにあてると見られる。 世界が注目するのは、年率 5 割以上の速度で急成長する中国ネット通販市場で、盤石の地位を占めるアリババの潜在力だ。 (北京 = 斎藤徳彦、asahi = 3-18-14)